研究課題/領域番号 |
26885095
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
隠岐 麻衣(須賀麻衣) 早稲田大学, 政治経済学術院, 助手 (40732714)
|
研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
|
キーワード | 政治思想史 / 政治哲学 / 西洋古典学 |
研究実績の概要 |
2014年度は、主として博士論文の最終章にかかわる研究を行った。研究実績としては、次の二つの口頭報告が挙げられる:(1)「説得ープラトンの政治的言論の技術ー」(日本政治学会)、(2)「Persuasion in the Preamble」(政治哲学研究会)。(1)、(2)ともに、プラトンの『ノモイ(法律)』において展開される、ポリスの法律の序文による、成人市民たちを説得する方法に着目した研究である。 (1)は、法律の序文は成人市民の徳の涵養を目指し、これは幼少期の教育とは別の方法を用いた「魂への配慮」と捉えるべきであることを示した。さらにこの方法は、支配者から被治者へというひとつの次元だけではなく、ポリスの創設者による、市民の教育という役割を担った詩人の説得と、立法や詩による市民の説得という二重構造を有していることも明らかにした。本報告は、ソフィスト的弁論術による説得を批判するプラトンは、この二重構造の説得によって、ポリスの統治とその安定の確保を目指したと結論づけた。 (2)は、(1)と同様の議論を展開しながらも、より個人の魂(精神)に焦点を合わせた研究である。すなわち、『ノモイ』の第1巻で提示される「神の操り人形としての人間」の比喩から考察を出発し、それが働きかける人間の魂の構造を明らかにした。「教育」は言語を必要としない情念レベルでの徳の涵養を行うのに対して、法律序文による「説得」は、言説を理性的に理解できる魂の部分に対して徳の涵養を勧めるのである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定と比べると、博士論文の進捗がやや遅れている。具体的には、平成26年度内に完成予定であった第1章と終章がまだ完成しておらず、平成27年度の前半に着手する予定であった序章は、まだ執筆を開始できていない。この遅れの原因の大部分は筆者の力不足によるが、それに加えて、先の研究実績に示した口頭報告でのディスカッション、および博士論文の指導教官や多くの研究者とのやり取りのなかで、博士論文の第2~第4章までの間に必要な修正部分、そして加筆すべき部分が明確になったためである。筆者は、これらの新たな章の執筆よりも、これらの修正部分に取り組むことの方が優先順位が高いと判断し、当初の予定から遅れる形とはなったものの、平成26年度内は博士論文の第2~4章の執筆に専念した。
|
今後の研究の推進方策 |
「達成度」にも記したとおり、当初の予定から遅れているため、平成27年度夏に予定していた博士論文提出を、2016年3月へと延期する。しかしこれは当初の計画の半分を断念することではなく、当初、博士論文の内容から外れると判断し、平成27年度後半の研究計画に組み込んでいた研究対象を、博士論文の一部として研究することを意味する。その際、当然ながら、博士論文全体の一貫性を持たせるために、いくつかの計画については断念する。具体的には、当初予定していた、プラトン以外の弁論家による古代ギリシアのテキスト断片の検討を最小限に減らし、プラトンの対話篇の内容と関連する限りにおいて、それらのテキストを用いることとする。 平成27年度の目標は博士論文提出である。論文完成のため、執筆した箇所はそのたびに学会や研究会において口頭報告を行い、早い段階でフィードバックを得るようにする。また、母語の日本語ではなく、英語で論文執筆を行っているため、言語レベルでの修正の時間を十分確保しながら、博士論文の完成を目指す。
|