本研究は、プラトン哲学における「政治」の意味の解明を目的としていた。この目的のため本研究では、共同体の構成員であるポリスの市民の魂へ働きかける方法として言論と言論以前の方法(音楽)に着目し、それらを用いた養育・教育を、プラトンがどのように論じ、それを彼が理想とする「政治」に役立てようとしたかを考察した。 上記の考察では、古代ギリシア語のプラトンの原典読解と、プラトンの作品にかんする注釈書(日本語、英語、ドイツ語、ラテン語)読解を主たる方法として用いた。ドイツ滞在中にはプラトンを扱う複数の演習に参加し、ディスカッションを通じて原典を批判的に検討した。 本研究を通じて明らかになったのは、プラトンの「政治」哲学は、現代政治学において、通常研究対象となる「政治」の概念よりも広い射程を持ち、それゆえにプラトンの「政治」哲学は特殊な仕方で語られるということである。この研究成果によって、プラトンを政治学において参照する場合にはほとんど考察されない、多くの哲学的議論や教育論こそプラトンの「政治」概念を検討する上で不可欠なものであることが示されたと言える。 2015年度には、An Anthology of Philosophical Studiesに、政治と詩人の関係にかんする論文を研究成果として発表した。また同年度には、テュービンゲン大学哲学部で行われた古代ギリシア学のコロキウムで2回の口頭報告を行った。ここではドイツ国内・国外の研究者たちの前で本研究課題を発表し、政治哲学の観点からのみならず、古典ギリシア語の解釈にかかわるものまで、多くのコメントを得た。研究成果の一部は、2016年度以降にドイツで出版される予定である。また、ドイツとイタリアの交流研究会においてはプラトンの『ポリテイア』にかんする古典ギリシア語の注釈を行い、本研究課題のの文献学的視座を示した。
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