本年度は、理論構築およびデータセット構築の予備作業を行った。具体的には以下3つの成果をあげた。①一党制の枠組みにおける競争選挙と、複数政党間競争選挙の理論的差異について、独裁者の視点から解答を与えることを試みた。興味深いことに、デュベルジェの『政党社会学』以来、2006年のバーバラ・ゲッデスによる近年の研究まで、先行研究は一党制における競争選挙と複数政党間の競争選挙を理論的に区別していないことが明らかになった。同時に、ソ連やエジプトといった広い意味で同じく「一党制」と呼ばれた独裁国家が、その政治体制の改革にあたって、一党制の枠組みを維持したまま競争選挙を行うか、複数政党制に移行するかといった課題に直面していたという事実を知り、一党制の枠組みにおける競争選挙と、複数政党間競争が、独裁者にとって政策的課題であったことも明らかになった。 ②その上で、一党制下の競争選挙と複数政党制下の競争選挙を区別する理論的枠組みとして、次の二つの仮説を導いた。(仮説1):一党制下では、党内エリートの地位を保証されるが故に、党内エリートは独裁者に服従する。しかし、一党制下で競争選挙を行えば、党内エリートの地位は不安定化するため、地位保証を基盤としていた独裁者による垂直的な基盤は消滅する。 仮説2:他方で、複数政党制を採用し、体制に対する反対派の組織化を許容し、反対党派が独裁政党に対して恒常的に選挙において挑戦する状態を達成すれば、独裁者は、独裁者は自身の党内のエリートに対して、党規律を維持できる。なぜなら、独裁政党の分裂は、党内エリート自身の不利益となるため、このことを知っている党内エリートは、党内での権力闘争の調停者として独裁者を必要とするようになるからである。 ③以上の理論に基づき、データセットの構築に着手している。
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