研究課題/領域番号 |
26885097
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
千野 貴裕 早稲田大学, 政治経済学術院, 助教 (00732637)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 政治学 / 思想史 / イタリア思想 |
研究実績の概要 |
「近代」は、グローバル化した現代においてその位置づけが問われている概念である。 近年、近代は多様性を抑圧し、特定の発展モデルを強制してきた概念であると批判されている。しかし、この批判は、近代の概念が果たしてきた、多様な社会構想を惹起する役割を見逃している。申請者の研究は、1920-30年代という「近代」が疑問に付された時代に、イタリアの主要思想家たちーークローチェ、グラムシ、ゴベッティーーが、「近代」の概念を通じてそれぞれの多様な社会構想を基礎付けようとしていたことを明らかにする。これら三者は共通して、「近代の完成」としてのファシズムに反対するものの、かれら自身の近代理解はそれぞれ、相当に異なっていた。ここで重要なことは、かれらが、この異なる近代理解に依りつつ、自らのイタリア「近代」国家構想、つまりファシズムによって実現はしていないが可能であったイタリア国家の構想を提示したことである。したがって、イタリア思想史の文脈において、上記の思想家たちが「近代」をいかに多様に解釈したかという問題は、「近代」イタリア国家の課題とその処方箋という政治思想の重要課題に密接に関わっているのである。 政治理論や歴史学の方面では、「近代」概念はグローバル化とともに重要な検討課題となってきた。しかしながら、近代が実際にどのように多様であったのかに関する研究はほとんどなされていない。申請者の研究は、イタリアの思想家たちがもった多種多様な近代観とそれに基礎付けたられた社会構想を明らかにすることで、多文化主義者の批判や文明論者の単純化にも関わらず、多様性を内包する概念であると示すことができるだろう。 課題採択された8月以降は、本研究計画に関連して、2回の学会報告(日本語1回、英語1回)を行った(2014年度通算では、日本語3回、英語2回)。また、共著書1冊(2015年度出版予定)を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね計画に沿って研究を進めている。上記した成果に加えて、2014年度の研究成果の一部は、2015年度に英語論文と英語共著書の形式で発表される予定である。 また、2014年11月には、コロンビア大学のHarry Harootunian教授のワークショップでコメンテーターを務め、米国での日本思想史をリードしてきた同教授と、思想史のあり方について意見交換する機会を持てた。同教授からは、現在執筆中で2015年度中に公刊される英語論文についての多くの有益な示唆を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
2015年3-8月は、EUの研究機関である欧州大学院(European University Institute, EUI)にMax Weber Fellowとして滞在している。EUIでは、政治学部の政治理論・思想史研究グループに所属し、ルーシー・ライアル(イタリア史)、アン・トムソン(思想史)、リチャード・ベラミー(政治理論)ら世界的研究者と本研究について議論する。とくに、歴史学分野でのグローバル・ヒストリーの成果を踏まえて、グローバルな規模で思想史を展開するための多くのヒントを得ることによって、本研究を単にイタリアの研究としてだけでなく、より広い文脈に位置づけることが可能であろう。6月には英国で一回、イタリアで一回の学会報告を予定している。また、本研究に関連して、2015年度中に英語論文を二本、日本語論文を一本投稿予定である。
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