論文「生命保険における新契約収益検証と調和する保険料計算方式に係る考察」で、現在用いられているプロフィットマージンを内包する方式がもつ問題を解決することができ、かつ我が国において採用可能な保険料計算方式を提言した。 従来の方式は収支相等の原則を基礎とし決定論的な手法に基づいている。この方式は収益性とリスクを考慮していないうえに、予定していない死亡率や金利の悪化に対処することができない。これに対し、新たな保険料計算方式は保険契約を保有するために必要なコストを費用と認識し、それらを外挿する方式である。保険料に外挿されたプロフィットマージンと収益指標中の内部留保額を整合させることによってすべてのセルの収益率を同一にするものである。 本研究の目的は生命保険における伝統的な保険料計算方法に替わるプライシング手法を検討し提言することであり、本稿により所期の目的を達することができた。我が国では生命保険のプライシング手法に関する研究はほとんど行われてこなかった。北米では、1980年代後半に保険料算出方式が伝統的手法からアキュムレーション法によるものに移行して以降多くの研究が行われていることと対照的である。 このような状況の最大の要因は監督当局による料率規制にある。我が国では商品認可に際し膨大な書類の提出と詳細な説明を必要としており、必ずしも専門家とはいえない監督官に新たな概念に基づく保険料計算方式を敢えて持ち込もうとしない空気が業界に蔓延している。 そこで別の問題解決の切り口として、論文「韓国における生命保険商品の多様化と料率自由化の進展」で、韓国監督当局が保険開発院に委託した「保険料算出に関する検証業務」を紹介した。これにより監督官庁における保険数理に係る申請業務の効率化弾力化が進んでいる。我が国においても同様の業務手順の創設は大幅な法改正を伴うことなく実施できるので参考になりうる。
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