研究課題/領域番号 |
26885099
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中嶋 聖雄 早稲田大学, アジア太平洋研究科, 准教授 (70734325)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 映画産業 / 中国 / 社会構造 / 市場 / ネットワーク分析 / 経済社会学 / 組織社会学 / 文化社会学 |
研究実績の概要 |
本研究は、過去35年間(1979~2013年)に生産された中国映画についての生産データ――どのスタジオが単独あるいは共同で映画を製作したか――に関するデータベースを作成し、ネットワーク分析の方法を用いることによって、スタジオ共同製作のネットワーク構造の変化・不変化を明らかにすることをめざしている。「新古典派経済学」によれば、現代中国におけるような市場移行期の生産ネットワークは、匿名の生産アクターによる一回性の「非繰り返し共同」(non-repeat collaboration)に向かうとされる。しかし、経済社会学的アプローチは、市場経済における生産ネットワークも、社会的権力(例えば、国有スタジオに対する政策上の優遇)や過去の取引の惰性的継続のような社会構造・メカニズムに「埋め込まれており」、「繰り返し共同」のかたちをとった市場の「社会的構造化」が出現するものとみる。本研究は、上記二つの仮説(新古典派経済学と経済社会学)の検証を行うことを目的にしている。 平成26年度は、まず、過去35年間に生産された中国映画のすべてについて、『中国電影年鑑』内の資料から、それぞれの作品を製作した映画スタジオ(近年ではプロダクション会社)をリスト・アップし、単独あるいは共同製作関係(国内および国外)のデータを収集し、ネットワーク分析用のデータベースを作成した。1979年から2013年のデータを集計することにより、時系列データ(いわゆる「パネル構造」と「イベント構造」)が作成された。 さらに、作成されたデータベースを対象に、パイロット的にネットワーク分析を試行した。より精緻な分析は、次年度以降の研究を待たねばならないが、パイロット分析において、時系列的に「繰り返し共同」の増加が確認され、経済社会学的アプローチが唱える市場の「社会的構造化」仮説に有力な証拠が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究目的は、主に、データベース作成とパイロット分析という基礎的な作業であったので、おおむね順調に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、まず、ネットワーク分析ソフトウェアを利用することにより、さまざまなネットワーク変数(「密度」、「距離」、「中心性」など)を作成する。さらに、時系列データ分析(「イベント・ヒストリー分析」、「パネル・データ分析」など)を活用することによって、上記ネットワーク変数の時系列的変化を把握する。 上記ネットワーク分析の結果から、新古典派経済学が主張するような「匿名アクター間の非繰り返し共同」が起こっているのか、または社会学的な「繰り返し共同」による「社会的構造化」が起こっているのか、あるいはまた両者が併存しているのか、を検証する。 続いて中国映画産業組織内人員へのインタビューを行い、上記で把握したネットワーク構造の歴史的変化・不変化をスタジオ経営当事者の視点から理解することをめざす。具体的には、各省に点在する「16社映画製作所体制」のなかからいわゆる「三大映画製作所」と呼ばれる北京映画製作所、上海映画製作所、長春映画製作所に焦点を絞り、スタジオ間共同に関わる意思決定を行う人物(多くの場合は映画製作所長)および関連各部局(主にプロダクション部門)の人々へのインタビューを行い、各スタジオの組織戦略とネットワーク構造との対照を把握する。 また、計量的ネットワーク・データ分析の結果を、当該時期(1979~2013年)における映画政策やマクロ経済指標の変化と照合し、ネットワーク構造の変化・不変化の原因を探る。 最終的には、ネットワーク分析から明らかになったネットワーク構造の変化・不変化が、現代中国映画産業、さらには現代中国経済全般の歴史的変化(映画政策上の変化、マクロ経済指標の変化など)、またより広範な国際貿易体制の変化とどのように対応しているかを明らかにするため、質的な歴史的記述研究と計量的分析の統合をめざす。 最終報告書および学術雑誌論文を執筆する。
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