研究課題/領域番号 |
26885106
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研究機関 | 成安造形大学 |
研究代表者 |
渋谷 亮 成安造形大学, 芸術学部, 講師 (10736127)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 子どもの科学 / フロイト / ビネー / 19世紀末 / 表象とイメージ |
研究実績の概要 |
本年度は、以下の研究を行った。 第一に、19世紀後半以降の子どもを対象とする科学の展開を、ミッシェル・フーコーの異常性をめぐる議論をもとに整理した。これによって19世紀以降の子どもの科学を、医学と司法のあいだで治療・教育・矯正の連続体に介入する装置として位置づけていった。19世紀末にこうした装置は、行為の逸脱を計測し標準化するテクノロジーと結びつく。とりわけ、グランヴィル・スタンリー・ホールやアルフレッド・ビネーは、子どもを計測する科学的な試みを展開した。これに対してジークムント・フロイトは、異常性を扱う装置の一つでありながら、子どもを計測するというよりは、諸々の逸脱を主体の表象のもとで構造化する。それは、フロイトが、計測し比較する欲望そのものを問題化したからではないかという見通しを立てた。 第二に、フロイトとビネーの初期の試みを対比し、表象概念を軸に整理した。彼らはともにジャン=マルタン・シャルコーのもとで学び、心的表象の力動性を捉えようとした。ビネーは、イメージの力動という観点から「無意識的な推論」を考察する試みを展開し、無意識をもうひとつの意識として把握する。これに対してフロイトは、まとまりを持った言語表象と分散的な事物表象を区別することで、意識とは異なる無意識の論理という考えを展開する。こうしたフロイトの議論が、原風景など子ども期のイメージに関する彼の議論と密接に関わっていることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
フーコーの議論を基礎にしながら、子どもの科学の展開を検討し、そのなかにフロイトやビネーの試みを位置づけるという意味では順調に進んでいる。ただし、以下の2点について当初の計画を変更して研究を進めた。第一に、19世紀末以降の精神病質概念などの展開を、自閉症をめぐる議論まで含めて検討すること、第二にビネーについて、知能検査だけでなく彼の初期の試みを含めてより広範囲に検討することである。第一に関しては、19世紀末から20世紀にかけての治療教育が、精神病質概念を積極的に受容することで発展してきたこと、また現在において治療と教育のあいだで最も議論の対象となっているのが自閉症であることを考慮し、必要な研究だと判断した。第二に関しては、ほとんど着目されていないビネーの初期の試みが、無意識についてフロイトの議論と対照をなしていることから、検討の価値があると考えた。以上の計画変更により、研究の進捗に関して遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究を継続しながら、とりわけフロイトとビネーの比較研究を本格的に行っていく。これと平行して、19世紀末の治療教育の動向を検討し、アルフレッド・アドラーの試みを中心にウィーンの子ども研究の動向の検討に着手する。
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