平成27年度は以下の研究を行った。 第一に、精神病質および自閉症に関する動向を辿ることで、治療と教育のあいだの異常性の領域について検討した。精神医学は19世紀後半に、行為の逸脱を扱うために、変質論や精神病質といった概念を展開してきた。そうした概念は、19世紀の末以降、J・L・A・コッホの精神病質低格などの概念を通して、治療教育学へと流れ込んでいく。自閉的精神病質や自閉症をめぐる議論は、このような流れに位置づけることができる。それは、精神病と精神薄弱のあいだの領域を開くものであったと言える。こうした点を踏まえてカナーの議論の可能性などを検討した。 第二に、フロイトとビネーの比較をより包括的に展開することを目指した。ビネーは知能検査を体系化するために、①高次で複雑な精神過程への焦点化、②統計的な平均という考えの導入、③検査技術の標準化と検査集団の組織化を通して、知能検査を体系化する。これに対して、フロイトは知への欲望を問題とした。フロイトにとって、子どもの知的探求は、子どもがどこから来たのかという問い、および同じものを見たいという欲望と密接に関わる。そうしたフロイトの試みは、子どもにおける固有の知や科学のあり方を示すものだったと言える。 第三に、20世紀前半のウィーンの子ども研究の動向を、アルフレッド・アドラーを中心に検討した。アドラーはフロイトから離反したのち、教育に積極的に関わり、児童相談のための診療所を作っていく。彼の発想は、子どもの行為の背景に、無意識的な動機を想定し、家族との関わりにおいてそれを解釈するという点で、フロイトと同じ方向性を有している。他方で共同体や性の捉え方、また治療における人や物の配置には明確な相違がある。そうした相違を検討し、さらにアウグスト・アイヒホルンなどの試みと対比を試みた。この点に関しては、まだ研究中であり、今後も継続的に研究を行っていく。
|