本研究は,近年の会計監査人(以下,監査人)交代に対する社会的疑念の高まりを受け,監査人の交代に関して理論的・実証的に検討することを課題とした。分析にあたっては,監査人の交代を期中交代と期末交代に分類し,それぞれ異なる研究方法にて接近を試みている。具体的には,監査人の交代についての理論的検討を行った上で,異例の事態であるとされ特殊なケースとして位置づけられる期中交代に関しては事例研究を行い,比較的発生頻度の高い期末交代に関しては実証研究を行うこととした。 本年度の成果としては,まず監査事務所を対象とする事例研究のサーベイを精緻に実施することで欧米の先行研究の知見を整理するとともに,日本での事例研究の可能性について検討した。その結果を踏まえた上で,期中交代に関する事例研究を行った。かかる分析の結果,大手監査法人が新規監査契約時にクライアントのビジネス・リスクを考慮するにあたり,必ずしもリスク回避的でない可能性を示唆する結果が得られた。実証研究については,監査人の交代と継続企業の前提に関する注記(/追記)が有意に関係しているという結果が得られたほか,交代理由の開示に関する分析も行っており,現在その結果を取り纏めているところである。
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