研究課題/領域番号 |
26885113
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研究機関 | 就実大学 |
研究代表者 |
長田 健一 就実大学, 教育学部, 講師 (30736161)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 社会科 / 論争問題学習 / 熟議民主主義 / 授業開発 / 歴史教育 / 輿論と世論 |
研究実績の概要 |
2年間のうち初年度にあたる本年度は,主に次の2点に取り組んだ。①本研究の基盤となる「熟議民主主義」の様々な理念と制度設計・実践に関するこれまでの議論や記録を分析し,論争問題学習の授業を開発するにあたっての基軸となる視点・原理を導き出すこと。②それらの視点・原理に即して,熟議型論争問題学習の授業モデルを部分的に開発すること。 まず①については,無作為抽出の市民による熟議の場を何らかの形で組み込む民主主義的手法(制度)である「ミニ・パブリックス」の諸類型を検討した。例えば,熟議と世論調査を組み合わせた実践である「熟議型世論調査(DP=Deliberative Poll)」は,参加者の厳密な無作為抽出と,合意形成を目的としないことにより,通常の世論調査や投票行動,及び自発的な議論に内在する諸問題―すなわち,いわゆる「非態度」や「合理的無知」「意見の集団分極化」「参加バイアス」―を克服し,熟慮された議論(情報の収集と討論を通じた,より確かな意見の形成,及び意見の変容)を創出することに一定程度成功している。このことから熟議型論争問題学習においては,熟慮された議論の創出―つまり,より正確で深い事実認識や異なる価値観の承認,間主観的な選択肢の判断―を目的とする場合,必ずしも学習者間で議論の到達点として合意形成を図る必要はないということを指摘できる。 また,熟議民主主義論における根本的な議論の1つに「理性」と「情念」の役割をどう捉えるかという争点がある。元来,熟議はハーバーマスの議論に代表されるように,理性的討議として位置づけられてきたが,「情念」はすべてそれを阻害するというわけではなく,むしろ補完する側面も持つ。この点から,上記②の研究として,民主主義における「理性」と「情念」の役割を,「輿論」と「世論」の2つの言葉の違い・変遷を通じて探究する,中学校社会科歴史授業の開発を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時の計画では,初年度のうちに熟議型論争問題学習のプログラムを複数分析し,明らかとなったカリキュラム構成原理の検討から熟議型論争問題学習のフレームワークを設計する予定であったが,その段階にまで至ることができなかった。逆に,次年度に予定していた授業モデルの開発を一部先行して進めることができたが,トータルで見た場合,進行状況としては「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在の進行状況に鑑み,熟議型論争問題学習のプログラムについては,分析対象の数を当初の予定よりも絞り,カリキュラム構成原理の分析を行う。続いてそれらの比較・検討に基づく熟議型論争問題学習のフレームワークを設計する。その後,フレームワークに即して授業モデルの開発を進める。なお,成果発表については,論文と学会での口頭発表で随時行う。
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