サイコパシーは冷淡さや衝動性などを特徴とし、犯罪などの反社会的行動と強く関連するパーソナリティである。サイコパシーの傾向が高い犯罪者は刑罰などに応じた行動の修正が難しく、サイコパシー傾向が低い者と比べて再犯率が高い。その原因は刑罰に対する恐怖などの感情を適切に喚起させることができないことにあると考えられている。実証的な知見として罰刺激を予期した際の自律神経系の活動がサイコパシー傾向に応じて小さくなるということが挙げられるが、このような身体反応が実際にサイコパシー傾向の高い者における反社会的行動に結びつくのかは明らかではない。このような背景から、本研究では罰の有無に応じた規範逸脱行動の抑制と、その際の身体反応の役割について、サイコパシーの影響を検討することを目的とした。 具体的な研究方法として,経済学的ゲームを用い,他者と分け合う金銭の額を決める際の皮膚電気反応と心拍数を測定し,自己記入式質問紙によってサイコパシー傾向を測定した。研究の成果として、まず、罰せられる可能性の有無によらず、サイコパシー傾向によって不平等な金銭分配が行われる頻度が高くなることを明らかにした。そして、これらの際に、皮膚電気活動によって示される交感神経系の活動性がサイコパシー傾向によって低下することが明らかになった。ただし、この交感神経系の活動性の低下は、罰せられる可能性がある状況における不平等な金銭分配と関連しなかった。したがって、これまでの仮説とは異なり、罰に対する感受性の低下はサイコパシーの特徴ではあるが、それが直ちに反社会的行動に結びつくものではないことを意味する。その一方で、罰せられる可能性がない場合では、交感神経系の活動がサイコパシー傾向による不平等な金銭分配を媒介することが統計的に認められた。このことは,規範逸脱に伴う内罰的な機能の低下がサイコパシーによる規範逸脱の原因であることを示唆する。
|