本研究は、連邦制において州の利益を代表する機能を持つ上院に焦点を当て、大統領と議会の関係における地方政治の影響を明らかにすることを目的としている。既存の議会研究のほとんどが州ではなく市民の利益を代表する下院を研究対象としており、地方政治の国政に対する影響を実証できていない。そこで、アルゼンチンとブラジルという2つの連邦制国家の上院における記名投票データや質的情報の比較分析を通じ、他地域の連邦制諸国にも応用可能な上院議員の大統領(または内閣)提出法案に対する一般的な行動パターンを解明する。 2015年度は、記名投票データの更新・収集作業を継続し、また、現地でのインタビュー調査を行った。その結果、両国における上院議員と州知事の関係性の違いが明らかになった。すなわち、アルゼンチンでは州知事が国会議員のキャリアパスに対して大きな影響力を持っているため、州知事は上院議員をコントロールすることができるが、多党制のブラジルでは州知事と上院議員の党派性が異なることが多いため、州知事による上院議員のコントロールは難しい。また、アルゼンチンでは委員会における議決が全会一致を基本としているのに対し、ブラジルでは法案ごとに任命される「報告者(relator)」の権限が大きい。よって、両国におけるキャリアパスの違いや制度の違いが議員行動にも影響を与えると考えられる。 一方、両国の共通点として、元大統領や元州知事といった、いわゆる「重鎮」上院議員の自律性の高さが挙げられよう。彼らは、自身の地盤である州に強固なマシーンを形成しているため、党のポジションに反した投票を本会議で行うことが少なくないのである。 今後は以上の点に留意しつつ、記名投票データの分析をさらに深めていきたい。
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