研究代表者の所属するグループでは、ホウ素(B)とリン(P)を同時にドープした「共ドープシリコン(Si)ナノ結晶」を独自に開発している。このSiナノ結晶は、有機分子の表面修飾なしで極性溶媒中に分散し、平均粒径を1-12nmの間で制御可能である。また、Siナノ結晶は金(Au)ナノ粒子と比較して大きな量子化準位間隔を有することが期待される。このSiナノ結晶を単電子島として利用するとクーロンブロッケード現象の発現に必要な付加エネルギーの増大、すなわちSETの動作温度の向上が期待できる。本年度は①共ドープSiナノ結晶を用いた単電子トランジスタ(SET)の形成、および②共ドープSiナノ結晶の表面修飾処理による高機能化を行った。 ①:共ドープSiナノ結晶と電極間隔が制御されたAuナノギャップ電極を組み合わせて、SETを形成した。共ドープSiナノ結晶は、電極上に形成したaminohexanethiol自己組織化単分子膜とのクーロン相互作用により、Auナノギャップ電極上に吸着させた。形成したSETは9K下でクーロンダイアモンド特性を示した。得られた特性は、複数のSiナノ結晶がAuナノギャップ電極間に導入され、それが単電子島として働きSETが動作していることを示唆している。この研究は東京工業大学のグループと共同で行った。 ②:共ドープSiナノ結晶を有機分子で表面修飾することにより、Siナノ結晶に有機官能基由来の性質を付与した。表面が水素終端されたSiナノ結晶と有機分子を反応させることで、有機分子をSiナノ結晶表面に付与した。今回はアミノ基を有するallylamine、カルボキシル基を有するacrylic acidを、付加する分子として選択した。作製したSiナノ結晶は、特定の官能基を持つ自己組織化単分子膜に選択的に吸着することが、原子間力顕微鏡を用いた表面観察により明らかとなった。
|