研究課題/領域番号 |
26886009
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
高松 利寛 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (10734949)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 大気圧低温プラズマ / プラズマ医療 / 活性種 / 殺菌 |
研究実績の概要 |
近年,低温で殺菌効果や止血効果を示す大気圧低温プラズマが医療や食品の分野で注目されている。しかし,従来の装置ではプラズマのガス種やプラズマの温度に制限があるため,各種の作用機序解明は容易ではなかった。本研究では,申請者らが開発した,様々なガス種でプラズマが生成でき,温度制御が可能な大気圧低温プラズマを用いて発生される活性種を詳細に調査することで殺菌等のメカニズムを明らかにし,さらに,慢性的創傷や創部感染症等のための治療装置として実用化への指針を得ることを目的とする。 当該年度では,プラズマの温度を20℃と一定にし,活性種の測定や殺菌効果の検証を行った。その結果,プラズマによって生成される各活性種について,各種分光手法を用いて詳細な定性・定量測定を行い,酸素プラズマではオゾンが0.26 mM/min,二酸化炭素プラズマでは一重項酸素が0.18 mM/min,窒素プラズマではヒドロキシラジカルが0.26 mM/min生成される事を明らかにした。また,各種プラズマの殺菌効果について,二酸化炭素,窒素プラズマで高い殺菌効果が得られることを明らかにした。また,他のガス種と比較して,OHラジカルを多く生成する窒素プラズマは,一般細菌,真菌,抗酸菌,芽胞,ウイルスといった11種類の微生物数を1~15分の暴露で6桁減少させることを確認した。一方,他のガスと比較して一重項酸素を多く生成する二酸化炭素プラズマは,一般細菌や一部の真菌で上記と同等の効果であることを確認した。この殺菌に寄与する活性分子種を同定するため,菌液に抗酸化物質を添加し殺菌効果を調査した結果,一重項酸素とOHラジカルが殺菌に大きく寄与していることを明らかにした。 また,平行して治療に特化したプラズマ装置の開発に着手し,金属の3Dプリンターで造形するための設計図を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度において予定していた,様々なガス種のプラズマから生成される活性種の測定において,オゾンやOHラジカル,一重項酸素酸素,NOラジカル等を各種定量し,ガス種によって各活性種の生成量が異なることを確認した。また,プラズマによる殺菌効果のメカニズム解明において,各ガス種のプラズマによるの殺菌効果の検証を行った結果,活性種生成量と比較すると一重項酸素とOHラジカルが殺菌に大きく寄与していることを明らかにした。この研究成果は国内外の学会で発表し,プラズマ関連や医学関連の研究者から頂いた意見を反映して,活性種の生成過程や殺菌機序などの考察を深めることができた。 また,平行して治療に特化したプラズマ装置の開発を行っており,金属の3Dプリンターを用いたプラズマ装置の開発にも着手している。現在存在する3Dプリンターの性能上,切削では不可能な造形や微小なサイズのものも作成可能であるため,今までに切削で作成した直径14 mmのプラズマ装置よりも,大幅に縮小できることが期待できる。現在,内視鏡の鉗子口に導入できるサイズを目標として,既に一部の部品を造形しており,造形後に簡単な切削や研磨を加えることで利用可能であることが明らかになっている。 これらの結果から次のステップである感染モデルを用いた動物実験や治療に特化したプラズマ装置の開発において大きな指針を得たため,研究目的の達成度について「おおむね順調に進展している。」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
プラズマから生成される各種活性種の生成量やその殺菌効果が確認できたので,今後は感染モデルの動物を用いた殺菌効果の検証を行う。その際,処理方法は直接照射か,プラズマを導入した溶液を介した処理かを吟味する必要がある。また,処理部位も創部や炎症部を対象とする予定であるが,感染モデルが容易に作成できる胃内等を検討している。いずれにせよ,動物実験申請書の審査があるが,概ね順調に進行している。感染モデルの動物に対するプラズマ処理の評価方法は,処理の有無によって感染部位から細菌が検出されるか否かをPCRや寒天培地上の培養によって判定する。また,感染により病状を作成するため症状改善の有無の評価はサイトカインなどの生体応答を調査し,必要に応じて電子顕微鏡を用い,より詳細な細菌の観察を行う予定である。 さらに,動物実験にて,平行してプラズマ処理の安全性調査を行う。これはプラズマを導入した溶液の口腔投与などにより処理し,一定回数投与した後に上記と同様に解剖して免疫染色やHE染色等で顕微的に評価する予定である。 治療に特化したプラズマ装置の開発では,金属の3Dプリンターを用いて,直径3.7 mmの内視鏡の鉗子口に導入できるプラズマ源を開発する。既にCADソフトにて3Dデータを作成しているため,そのデータで出力されたプラズマ源を再度各種分光測定法や殺菌効果の検証によって評価し実用のレベルまで改良する予定である。
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