研究実績の概要 |
近年,低温で殺菌効果や止血効果を示す大気圧低温プラズマが医療や食品の分野で注目されている。しかし,従来の装置ではプラズマのガス種やプラズマの温度に制限があるため,各種の作用 機序解明は容易ではなかった。本研究では,申請者らが開発した,様々なガス種でプラズマが生成でき,温度制御が可能な大気圧低温プラズマを用いて発生される活性種を詳細に調査することで殺菌等のメカニズムを明らかにし,さらに,慢性的創傷や創部感染症のための治療装置として実用化への指針を得ることを目的とした。 昨年度ではプラズマから生成される活性種を調査し,ガス種によって生成される活性種が大きく異なることが明らかになったため,当該年度では,プラズマによる殺菌効果の調査を行った。その結果,酸素プラズマで処理された溶液で,黄色ブドウ球菌,大腸菌,緑膿菌に対して高い殺菌効果が確認された。また,プラズマを照射した溶液は殺菌効力を20分程度保持することが確認され,その溶液の細胞毒性を調査したところ,ヒト繊維芽細胞に対して処理してもネクローシスを引き起こすことはなかった。さらに,げっ歯類へプラズマ照射した溶液を経口投与をしても,急性毒性や粘膜障害は確認されなかった。 次に治療に特化したプラズマ源の開発のため,金属の3Dプリンターを用いたプラズマ源設計を行った。その結果,内視鏡の鉗子口にも導入できる直径3.5 mmのプラズマ源を造形することに成功した。また,そのプラズマを生体ブタの粘膜組織に照射しても急性毒性や組織の変性を引き起こすことはなかった。
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