本研究の目的は、電析により高強度・高延性バルクナノ結晶メタルを作製し引張変形にともなう組織変化を解析し、電析ナノ結晶材料の変形メカニズムを明らかにすることである。当初、走査型イオン顕微鏡や透過型電子後方散乱回折法による観察を予定していたが、設備の準備が十分に行えなかった。そのため、H26年度において、micro-XRDを用いて、高強度・高延性バルクナノ結晶Fe-Ni合金の引張前後における破断部付近の組織変化について解析を行った。その結果、従来の粗粒材料や5%程度の引張伸びを有したナノ結晶合金とは異なる配向性の変化が確認され、従来とは異なる変形メカニズムの発現により延性の向上が起きたことが示唆された。 H27年度は、上記設備の使用環境準備と平行して、開発電析技術の工業展開に向けた課題解決などに取り組んだ。過去に開発したNi-W合金電析浴は、錯化剤としてプロピオン酸を用いていた。しかしながら、プロピオン酸は、悪臭防止法の規制対象物質であり、その使用は困難である。そこで、プロピオン酸の代替物質の探索を行った。その結果、プロピオン酸ナトリウムもしくはグルコン酸ナトリウムを用いることで従来浴と同等のバルクナノ結晶Ni-W合金を得ることに成功した。 H27年度の設備環境の整備により走査型イオン顕微鏡による観察を行う準備が整った。今後、引張試験前後における高強度・高延性バルクナノ結晶合金のメゾスケール組織を観察し、その変化から変形メカニズムの解明を行っていく予定である。
|