申請者は、Biナノワイヤーに量子閉じ込め効果の導入によるエネルギー変換効率の向上を目指した研究開発を行っている。これまでに、石英ガラス製テンプレートを利用した直径数百ナノメートルのBiナノワイヤーの開発を行い、電気抵抗率と単位温度差当たりの熱起電力であるゼーベック係数の同一サンプルでの測定を行ってきた。直径160nm級のBiナノワイヤーにおいてゼーベック係数の温度依存性がこれまでとは全く異なるものになり、量子閉じ込め効果の導入が示唆された。しかしながら、非常に小さい直径に適切な低接触抵抗のオーミックコンタクトが得られていなく、電気抵抗率の測定ができていなかった。そこで本研究開発では昨年度、直径100nmオーダーのナノワイヤーに適切なオーミックコンタクトを得る手法として、研磨プロセスを改良することにより適切な電極作製を試みてきたが、低温領域まで適切な電極を形成するには至らなかった。そこで、今年度はこれまでの電極形成プロセスを変更し、集束イオンビームを利用した電極形成を試みた。その結果、直径100nmオーダーのナノワイヤーへの適切なオーミックコンタクト電極を作製することに成功した。その結果、開発したスターリングクーラー式冷凍機を装備したクライオスタットを利用して、マイナス120度の低温領域までの同一サンプルにおけるゼーベック係数と電気抵抗率の測定に成功した。 また、一方でBi系材料中のホール係数や磁気抵抗率、磁気ゼーベック係数等の電流磁気効果について、ボルツマン方程式に基づいた計算モデルを確立し、定量的・定性的に磁場中でのキャリア輸送現象について説明することに成功した。さらにこのモデルに、ナノワイヤー中のキャリア散乱を考慮して、マティーセン則を利用した緩和時間の計算を行ったところ、ナノワイヤー中のキャリア輸送現象を説明することに成功した。
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