研究課題/領域番号 |
26887001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山崎 智也 北海道大学, 低温科学研究所, 学術研究員 (50735032)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / TEM / リゾチーム / タンパク質 / 結晶化 / 結晶成長 / “その場”観察 / 溶液成長 |
研究実績の概要 |
研究代表者の所属する研究室で立ち上げた、溶液ホルダー、溶液セルを備えた透過型電子顕微鏡(フルイド反応TEM)をリゾチームタンパク質の結晶化に応用するための実験条件最適化を行った。本システムは溶液中やそこで生じる現象をナノのスケール、実時間で直接観察できる装置である。 フルイド反応TEMでは、溶液を非常に細いチューブを通して流すことで、結晶化の駆動力を維持する。溶液中のタンパク質濃度を高くすれば結晶化の駆動力を大きくすることができ、結晶化の観察が容易になるが、チューブ内での結晶の形成や溶液の粘度の増加によりチューブが詰まる恐れがあるため、いたずらに高濃度の溶液を使用することができない。そのため、効率よくタンパク質の結晶をフルイド反応TEMで観察するための溶液条件を決定することが必要であった。 過去の実験データから、結晶の生成が期待できる溶液条件を複数設定した。設定した条件の溶液を実際に作製し、光学顕微鏡を用いて結晶が出現するかどうかの確認を行った。これらの結果から、フルイド反応TEMに用いることができ、リゾチームの結晶化が期待できる溶液条件を決定した。 リゾチーム結晶がフルイド反応 TEMで確実に観察できるように、比較的高濃度で結晶片を含んだ結晶化溶液をあらかじめ溶液セルに密閉し、そこへ決定した条件の溶液を流した。その結果、フルイド反応TEMでリゾチーム結晶を観察することに初めて成功した。過去にTEMでタンパク質結晶を水溶液中で“その場”観察した例は存在しない。本結果は、タンパク質結晶を液中に保持したまま、ナノのスケールでとらえた初めての事例である。 以上より、フルイド反応TEMがタンパク質結晶にも適用できることが分かったため、次年度は当初の計画どおりにリゾチームタンパク質の結晶化の“その場”観察を精力的に行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
26年度の計画は、1.フルイド反応TEMを用いたリゾチーム結晶化“その場”に適した溶液条件を決定し、2.フルイド反応TEMを用いて予備観察を実施すること、である。 1.については、まず、過去の実験データをもとに結晶の生成が期待できる溶液条件を複数設定した。設定した条件の溶液を実際に作製し、光学顕微鏡を用いて結晶が出現するかどうかの確認を行った。この結果をもとに、フルイド反応TEMに用いることができ、リゾチームの結晶化が期待できる溶液条件を決定することができたため、達成している。 2.については、これまでにフルイド反応TEMに類するような、溶液中にあるタンパク質結晶を透過型電子顕微鏡で観察した例はないため、まずはどのような結晶像が得られるのかを確かめる必要があった。それを確認するために、確実に結晶が存在する溶液条件でフルイド反応TEMを用いた観察を行った。その結果、フルイド反応TEMで溶液中のリゾチーム結晶を観察することに成功した。観察された結晶像は、光学顕微鏡のそれと類似した形状であった。また、観察された結晶の電子回折パターンの取得にも成功した。フルイド反応TEMを用いて実際に結晶を観察し、さらには電子回折パターンが取得できることも分かったため、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
27年度の計画は、フルイド反応TEMを用いたリゾチームの結晶化過程“その場”観察を行い、実験データを解析することで、その結晶化過程をモデル化することである。基本的にこの計画に沿って進めていく予定である。 まず、決定した溶液条件のリゾチーム結晶化溶液を用い、リゾチームの結晶化をフルイド反応TEMのもとでの“その場”観察を行う。リゾチームの結晶化の様子は画像、及び、動画として記録する。また、生成物に対して電子回折パターンを取得し、画像として記録する。生成物が相転移する可能性もあるため(生成物がその形をほとんど変えずアモルファス相から結晶相に変化する場合など)、電子回折パターンは、時間的・空間的に細かく取得していく。 解析では、生成物のTEM像が示すコントラストや、その動画、電子回折パターンから、その相が液相か固相かを総合的に判断する。固相は電子回折パターンからアモルファスか結晶かを決める。さらに結晶については、電子回折パターンからその晶系を決定し、本溶液条件下で晶出する晶系(正方晶系、斜方晶系)であるかを確認する。 観察と解析の結果から、結晶化におけるDense liquid、アモルファスの役割を明確にする。これらの役割を踏まえ、結晶化の物理、化学過程を考察し、リゾチームの結晶化過程のモデル化を行う。そのモデルを従来のモデルと比較し検討したうえで、新しいモデルとしての確立を目指す。
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