研究課題
光電場の振動を一周期以下しか含まない極限的な赤外光パルス(単一サイクル:パルス幅5フェムト秒(fs)、中心波長1.7μm)の瞬時強電場(>>10 MV/cm)は、多体電子系(強相関電子系)を極端な非平衡状態へと導くことができる。本研究では、単一サイクルの高強度、キャリアエンベロープ位相(CEP)安定化光源を開発し、理論的に予測されている極端非平衡の中でも最も基本的な電子の局在化(動的局在:移動積分tの減少)を実験的に検証した。光源開発: 光パラメトリック増幅器から出力されるCEPが固定されたアイドラー光に対して、Krガスを充填した中空ファイバーによる広帯域化を行い、チャープミラーと形状可変鏡を併用したパルス圧縮によって、瞬時電場強度90 MV/cm、パルス幅6 fs(1.3サイクル)の究極的な光パルスを発生した。電荷の局在化(動的局在): 瞬時電場強度 >10 MV/cmの赤外極短パルスを用いた反射型ポンプ-プローブ分光によって、電荷秩序系の有機伝導体α-(BEDT-TTF)2I3における金属→絶縁体転移 [Nature Commun. 5, 5528 (2014)]、(TMTTF)2AsF6における電荷移動積分tの減少(プラズマ周波数ωpの減少)[Phys. Rev. B 93, 165126 (2016)]、ダイマーモット系の有機伝導体κ型BEDT-TTF塩における金属→絶縁体転移を捉えている。さらに、>20 MV/cmの瞬時強電場を用いた実験から、モット‐ハバード型の典型的な遷移金属酸化物V2O3の金属相においても電荷の局在化を示唆する結果を得ている。これらの結果は、試料に対して極めて高強度の高周波電場を非破壊的に印加できる本実験手法によって初めて実現された現象である。特に、光誘起金属→絶縁体転移(電荷の局在化)は、従来よく知られる光誘起絶縁体→金属転移(電荷の秩序の光融解)とは逆の電子状態の変化であり、光による固体の物質制御に向けた新たな指針を示す結果と言える。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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Phisical Review B
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Springer Proceedings in Physics 162 (Ultrafast Phenomena XIX)
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