研究課題
本年度は、薄膜試料にも適用可能なゼーベック・ネルンスト係数を低温・高磁場で測定可能なシステムの開発に取り組んだ。具体的にはまず初めに、テスト用のプローブとして幅広い温度領域で物性測定を行うことができるプローブの作製に取り組んだ。このプローブは、液体ヘリウムベッセル容器に直接入れて冷やすことが可能なので、ゼロ磁場の環境下でなら簡単にテストを行うことができる特徴を持つ。実際に自作したプローブを用いてテストを行ったところ、1.5 K ~ 180 Kの温度領域で長時間安定して測定することが可能であることが分かった。次に、既存のDewarに12 Tの超伝導マグネットを取り付けて、高磁場の環境下で物性測定を行うことができるようにシステムの改造に取り組んだ。超伝導マグネットの磁場特性はホール素子で評価し、問題なく12 Tの高磁場まで印加することができることが分かった。さらにそれを用いて、カゴメ格子フラストレート系ボルボサイトや、スピン液体候補物質であるκ-H3(Cat-EDT-TTF)2の熱伝導率を高磁場中で測定することにも成功した。熱伝導率の測定システムは、ゼーベック・ネルンスト係数測定と類似した構造を持つ。したがって、これらの成果は、低温・高磁場でゼーベック・ネルンスト係数測定を行う上で大きな礎になっていると言える。現在は、上記の成果をまとめると共に、ゼーベック・ネルンスト係数測定のシステムの完成を急いでいるところである。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、1.5 K ~ 180 Kの広範囲の温度領域で12 Tの高磁場まで物性測定を行うことができるシステムの開発に成功している。さらに、ゼーベック・ネルンスト係数測定と類似した測定システムである熱伝導率測定にも成功している。これらを応用すれば、近日中には低温・高磁場の環境下でゼーベック・ネルンスト係数を測定することができるようになると考えている。以上から、本研究の進捗状況は良好であると言える。
今後は、熱伝導率用のセルを改造すると共に、現在までに作製することに成功した1 Kプローブと12 Tマグネットを組み合わせることで、一刻も早くゼーベック・ネルンスト係数の測定テストに入れるように取り組む。その上で、現有している希釈冷凍機に、このゼーベック・ネルンスト係数測定システムを拡張することで、極低温下での実験も可能にし、本題である重い電子系人工超格子に関する測定も行っていく予定である。これらによって、2次元重い電子系における重いバンド由来の電子比熱やフェルミ面を観測することができるようになり、2次元f電子系化合物の電子状態を解明する糸口を掴むことが期待される。
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Physical Review Letters
巻: 112 ページ: 156404
http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevLett.112.156404