研究課題/領域番号 |
26887018
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
浦川 優子 名古屋大学, 高等研究院(理), 助教 (80580555)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 宇宙インフレーション / ゲージ/重力対応 / 宇宙論的摂動 |
研究実績の概要 |
本課題の目的は、弦理論においてその存在が指摘されたゲージ/重力対応を、宇宙論的なセットアップに応用可能かどうか検証することである。特に、最新の宇宙論的観測において強く示唆されている、初期宇宙の加速膨張期であるインフレーション期の宇宙を、ゲージ/重力対応を用いて記述可能であるか調べる。この目的達成のため、平成26年度は以下の二課題を遂行した。 1)ホログラフィー原理に基づくインフレーション模型の理論的構築 ゲージ/重力対応の基本原理であるホログラフィー原理は、重力を含まないd次元の場の理論と、(d+1)次元の重力理論の間に双対な関係を与える。これまでナイーブな予想として、インフレーション宇宙の時間発展は、双対な場の理論の繰り込み群を解くことにより記述されると考えられてきた。この予想を検証するため、我々は曲率揺らぎと呼ばれる重力場の摂動量に着目した。宇宙論的摂動に基づく解析により、曲率揺らぎは大スケールにおいて時間的に保存することが知られている。Jaume Garriga教授との共同研究において、曲率揺らぎの保存則が、場の理論の繰り込み群を解くことにより再現され得るかを検証した。その結果、時間変数と繰り込みスケールがある一定の関係にある場合には、曲率揺らぎの二点相関が保存することが示された。一方、三点以上の高次相関関数の保存則については、今後の課題として残された。 2)ホログラフィー原理に基づく多様なインフレーション模型の構築 Jaume Garriga教授及びKostas Skenderis教授との共同研究のもと、複数のスカラー場を含むインフレーション模型の構築に取り組んだ。双対な場の理論として、共形不変性を破るD個の演算子を含む場の理論を考えることにより、具体的にD個のスカラー場を含むインフレーション模型の構築を行い、この模型において初期揺らぎの計算を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に行った研究において、宇宙論的摂動において示されている曲率揺らぎの保存則が成立するためには、宇宙の時間変数と場の理論の繰り込みスケールが一定の関係にある必要があることが示された。この関係式は、ホログラフィー原理を用いて、インフレーション宇宙を記述するために必要となる重要な関係式である。これまで曲率揺らぎの二点相関の保存則を議論してきたが、三点以上の高次相関関数が時間に関して保存するためには、場の理論の計算において一致極限で生じる発散を取り除くために導入される相殺項に、制約が課される可能性があることがわかった。しかしながら、この点についてはまだ具体的な検証が十分ではなく、さらなる議論が必要である。
また、多成分のスカラー場を含むインフレーション模型を双対な場の理論を用いて記述することに取り組んだ。場の理論の繰り込み群方程式を解くことにより、背景宇宙の時間進化及び揺らぎの時間進化を具体的に解析した。特に、宇宙論的摂動に基づく解析において、複数のスカラーを含む模型では、断熱揺らぎに加えてエントロピー揺らぎが生成され、曲率揺らぎは大スケールでも時間変化し得ることが知られている。我々は、これらの性質は、双対な場の理論における計算でも確認できることを示した。双対な場の理論を用いた多成分を含むスカラー場の解析はこれまでに例がなく、これらの結果は新規性の高い成果である。
ゲージ/重力対応を用いたインフレーション模型の記述に関しては、未だ理解が十分でない点も多く、さらなる研究が必要であるが、目的達成に向け順調に研究を遂行できていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)ホログラフィー原理に基づくインフレーション模型の理論的構築 これまで行った研究に基づき、我々は、曲率揺らぎの三点以上の高次相関関数が時間に関して保存するためには、場の理論の計算において導入される相殺項に、ある一定の条件を課す必要があるのではないかと予想している。この予想の真偽を検証するため、どのような場合に三点以上の高次相関が保存するか調べていく。この点については、Jaume Garriga教授との共同研究のもとすでに一定の成果を得ており、正則化された一致極限の相関関数が満たすべき条件を導出した。また、平成26年度に行った研究において、二点相関が保存するという要請から、宇宙の時間変数と繰り込みスケールの関係式を導いた。この計算は”スローロール近似”の主要項のみを取り入れたものである。今後は高次項を取り入れた、より一般的な解析への拡張を行っていく。 2)ホログラフィー原理に基づく多様なインフレーション模型の構築 ゲージ/重力対応の宇宙論的な応用に関する理解が十分進んでいない理由として、その具体例が不足していることが挙げられる。具体例として知られているのは、Vasiliev理論と呼ばれる高スピン場を含む理論における例だけである。1)の課題を遂行することにより、双対な場の理論が満たすべき性質の一端が明らかになると考えられるが、その成果をもとに、ホログラフィー原理に基づくインフレーション模型の具体的な構築に取り組んでいく。 3)観測データとの整合性の検証 2)において構築されたインフレーション模型において予言される、宇宙背景輻射の温度揺らぎ及び偏光などを計算し、観測データとの整合性を検証していく。
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