研究課題/領域番号 |
26887024
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大坪 嘉之 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (70735589)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | スピン軌道相互作用 / スピン・角度分解光電子分光 / 電子線スピンフィルタ |
研究実績の概要 |
本年度は新奇スピンフィルタ候補物質としてビスマス単結晶表面およびアンチモン化インジウム基板上のスズ薄膜について検討した。両者の電子状態はスピン軌道相互作用による大きなスピン分裂を示しており、電子線スピンフィルタ機能を示すことが期待できる。特にビスマス単結晶の(111)面においては、表面原子構造の対称性に由来するバレー自由度の影響により、既存の電子線スピンフィルタ物質では得られなかった標的表面に垂直な方向のスピンに関するフィルタ機能の発現が期待できると判った。 一方、分子線エピタキシー(MBE)法を用い、電子線スピンフィルタの標準試料である表面酸化Fe(001)単結晶薄膜を作製した。また、MBE法による薄膜成長の過程をその場観察するための定量的反射高エネルギー電子回折(RHEED)振動計測システムおよびその制御・解析プログラムを立ち上げた。本計測システムを用いることで、薄膜成長過程で試料からの電子回折ストリークの明らかな強度振動が観測できた。これは実際にMBE法による薄膜成長の過程を観察できることを示す結果である。 並行して第一原理計算による酸化Fe(001)薄膜およびBi(111)単結晶表面の電子状態のシミュレーションを行った。特に電子線回折に関わる非占有電子状態およびそのスピン偏極に注目し、電子線スピンフィルタ機能の発現に強く関わると考えられる電子構造を見出した。 次年度に標準試料である表面酸化Fe(001)薄膜およびビスマス・スズ等のスピンフィルタ候補物質の両者について実際に電子線を照射し、回折電子線のスピン偏極度を計測・比較することにより、電子線スピンフィルタとしての機能性を実際に評価する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新奇スピンフィルタ候補物質の探索は順調に進んでおり、いくつかの表面構造について理論計算から有望なスピン偏極非占有電子状態を見出した。電子線スピン反射率の実験的な測定方法については当初計画から変更したが、それ程遅れてはおらず、次年度早々に実験を開始できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に見出した新電子線スピンフィルタ候補物質について、回折電子線のスピン偏極度を実際に計測することにより、電子線スピンフィルタとしての機能性を評価する。特に、既存の物質では得られていない標的表面垂直方向に偏極した電子線スピンの検出能力の発現に注目して測定および物質探索を行う。 電子線スピン反射率の実験的測定については、当初計画では二重散乱法を用いる予定であったが、実験装置の配置および配分された研究費の都合から、試料による電子回折は一度だけに限り、回折電子線のスピン偏極度を既存のスピン分解光電子分光装置の検出器を利用して計測する方法に変更した。計画変更による実験の遅れは今の所許容範囲内であり、次年度早々にも測定を開始できる見込みである。
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