複数の小河川からの河川プリュームが相互作用し形成される、岸を”左手”にみて流れるType2プリュームは沿岸海洋生態系に多大な影響を与えていると考えられるが、ほとんど観測例がなく、数値シミュレーション研究でも扱った例はない。本研究では、静止海色衛星データにもとづいてType2プリュームの観測事例を調べると共に、多層モデルを用いた数値実験によって複数河川の出水によって形成されるType2プリュームの形成プロセスを調べた。東西150 km×南北450 kmの矩形海洋において西岸中央部付近の沿岸域に複数の河口がある帯状の領域を設定し、淡水出水総量は一定にして河口数と河川間隔を変えた実験を実施した。成層強度、海底斜面等の物理パラメータに加えて、コリオリパラメータやハイドログラフも変化させた。180日後の計算結果をみると、長いType2プリュームが形成されていた。河川数が20以上ではプリューム長はほとんど変化しないが、20以下になると河川数が少なくなるほどプリューム長は短くなった。河川数が3つの時に最も短くなり、海底斜面の勾配が緩やかになるとプリュームが長くなる傾向にあった。地形勾配よりも河川数の方がプリューム長に対して支配的であった。密度成層を変化させてもプリューム長への影響は小さい。数値実験結果にもとづいて、小河川が多い日本沿岸海域におけるType2プリュームの出現する海域が、噴火湾、大阪湾、富山湾と推定された。これらの海域において、静止海色衛星プロダクトの有色溶存有機物マップを海表面塩分マップに変換し、Type2プリュームの出現を調べると共に二級河川を含めた河川流量や気象海象データを解析した。その結果、洪水時(融雪出水期や気象擾乱通過後)の初期には岸を右にみて流れるType1プリュームが出現しやすいが、Type2プリュームは融雪期後の平水時に徐々に形成される傾向にあった。
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