研究実績の概要 |
今年度は原始的指標に付随するDirichlet L-関数の自明でない零点全体における単純零点の割合の評価を研究した. 一般に, Dirichlet L-関数の零点はすべて複素平面における実部が1/2の直線上にあり, しかもこれらの零点はすべて単純零点であると予想されている. 特に後者の主張は単純零点予想(Simple Zeros Conjecture)と呼ばれ, 1970年代にMontgomeryがRiemannゼータ関数の場合に零点全体のうち少なくとも2/3が単純であるという結果を証明して以来, 様々な手法により割合の評価が改善されている. 近年の研究で, Chandee, Lee, Liu, Radziwillらは上記のDirichlet L-関数の零点のうち11/12(約91.7%)が単純零点であることを一般Riemann予想の仮定の下で証明した. 私の研究では, 再生核Hilbert空間の理論を活用して零点の相互関係の公式を最大限に活かせるテスト関数を見つけることにより, 彼らの結果を1.5%程度改良し, 自明でない零点のうち少なくとも93.22%は単純零点であることを証明した. この結果は20ページ程度の論文にまとめて投稿し, Bulletin of the Australian Mathematical Societyに掲載が確定した. また, 零点の相互関係の公式から生じる非対角成分の寄与を評価することで単純零点の割合評価を僅かながら改善できることを証明し, この結果をRIMSの講究録にまとめた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では保型L-関数の解析的性質, 特にそれらの零点がどのように分布しているかを調べることを第1目標に挙げたが, 2014年度の研究ではDirichlet L-関数の単純零点の割合に関して非常に強い結果を証明することができた. また, その結果はいくつかの研究集会で発表し, 更に専門誌に掲載が確定して一定の評価を得た. したがって現在のところ研究計画は概ね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては, 当初研究計画に掲げた通り保型L-関数の零点に関する解析的整数論からのアプローチを中心に進めていく予定である. 研究成果を広範囲に伝えるため, RIMS解析的整数論集会や名古屋大学のゼータ関数の集会など様々な研究集会に参加し, これまでの研究成果を発表することを計画している. また, これまで得られた研究成果や知識を利用することで, 素数の分布などのより基礎的なテーマにも力を注ぐ予定である.
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