本研究は、生物の運動に見られる筋収縮による進行波のパターンとその制御のメカニズムについて数理的な視点からの考察・提案を行うことが目的である。ここでは、様々な運動形態にも基本となる制御論理が潜んでいるという視点に立ち、単純な運動形態のひとつである這行運動に着目した。腹足類の這行運動機構におけるによって示唆されたDirect waveとRetrograde waveという2つの運動様式に関する分岐現象を数学的に解析し粘液による運動機構の理解を深めるとともに、モデルを2次元に拡張し、多様な運動パターン を持つ腹足類の這行運動における摩擦制御メカニズムを解明することを目標とした。 分岐現象の解析にあたって、まずはすでに提唱していた空間離散モデルを連続モデルに改良する必要があった。既存のモデルの腹足部分の空間連続近似モデルは、反応拡散系の常微分方程式を得ることができた。分岐現象に関しては、数値計算から筋収縮率をパラメータとしてPitchfork分岐が観察されることが明らかとなり、筋肉の性質が運動に及ぼす影響を示唆した。解析を進めるなかで、進行波が明示的に記述されているがゆえに、さらなる解析と深い理解を困難にしているという既存のモデルの問題点が明らかとなった。そこで、制御の観点に立ち返り、粘液の性質と局所的なルールによって結果的に進行波が創り出される制御について考察するため、局所的な制御のカップリングにより大域的な制御が創り出される数理モデルを提案した。現在この研究成果については論文を投稿中である。今後、このモデルを元に、腹足類の運動様式の数理モデルを改良し、分岐現象に関してさらに考察する予定である。
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