研究課題
本研究では、超弦理論特有の効果としてDブレインと重いスカラー場がインフレーション期の原始密度揺らぎ生成シナリオに与える影響を調べることに焦点を当てており、特に平成26年度は「偏光成分の情報を含んだ宇宙背景輻射の観測結果からのDBIインフレーション、DBIガリレオンインフレーションへの制限(A-1)」と「現象論的モデルにおける重い場を含むインフレーションモデルにおける共鳴効果の定量的評価(B-1)」を行なうことを目的としていた。(A-1)の研究方法として、私が過去に求めていたDBIインフレーション、DBIインフレーションで生成される原始密度揺らぎを初期条件として輻射のボルツマン方程式を、私が以前所属していたポーツマス大学の研究者の開発した数値コードSecond-Order Non-Gaussianity(SONG)を用いて計算した。 (B-1)の研究方法としては、パリ大学の齊藤博士等が以前に得ていた、共鳴期における重い場の励起と原始密度揺らぎのスペクトラムとの関係式に対し、私が前に定量的に評価していたインフラトンの軌道が急激に変化による重い場の励起の評価を適用して行なった。その結果、(A-1)においては、現在提案されているコンパクト化に基づくDBIインフレーションは既に除外されること、DBIガリレオンインフレーションも誘導重力の係数が大幅に制限されることを示した。(B-1)においては通常の運動項をもつ重い場の励起の寄与は原始密度揺らぎのスペクトルに影響を与えないものの、微分結合をもつ運動項が存在しているときは原始密度揺らぎに微細構造が現れ、将来の観測によって検知できる可能性のあることを示した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、超弦理論特有の効果としてDブレインと重いスカラー場がインフレーション期の原始密度揺らぎ生成シナリオに与える影響を調べることに焦点を当てている。Dブレインの効果を調べる研究としては平成26年度にCMBからの制限を明らかにし、平成27年度に大規模構造からの制限を明らかにすること、重いスカラー場の効果としては平成26年度に原始密度揺らぎに対する予言を得て、平成27年度にCMBからの制限を明らかにするという予定であった。Dブレインの効果に関する研究は、既に大規模構造からの制限の研究に関する途中経過を3月の日本物理学会で発表するなど順調にすすんでいる。それに対し、重いスカラー場の効果に関する研究は、原始密度揺らぎに対する予言を得るところは完了しているものの、共鳴の効果がスペクトルに有意に現れるモデルは運動項のかたちを微調整しなければならず、自然な運動項を持つモデルではCMBからの制限を計算するまでもなくその効果が観測的には検知できないという結果が得られた。もちろん、このような違いを明らかにしたのは平成26年度の研究の成果ではあるが、当初は平成27年度の研究計画としてこの理論的予言を用いてCMBの計算を行なうという手順のみを行なう予定だったのに対して、少し理論的予言に対する解釈や超弦理論との関係性といった、理論的研究についてまだ時間をかける必要が生じてきたぶん、やはり当初の研究の目的達成には期間中はかかるものと予想される。
本研究では、超弦理論特有の効果としてDブレインと重いスカラー場がインフレーション期の原始密度揺らぎ生成シナリオに与える影響を調べることに焦点を当てている。Dブレインの効果を調べる研究としては当初の予定通り、平成27年度には大規模構造からの制限の研究に取り組む。その際、これまで注目されていたハロー・銀河のパワースペクトルにはDブレインによるインフレーションで生じるようなequilateral型の非ガウス性の影響は現れないのであるが、我々がハロー・銀河のバイスペクトルに注目する。また、密度揺らぎの分布と銀河の分布との関係を決めているバイアスに対しては最近名古屋大の松原隆彦准教授の提案したintegrated perturbation theoryを適用する。重い場の効果に関する研究については、CMBの計算に取りかかる前に、平成26年度の理論的な研究によって得られた共鳴の効果がスペクトルに有意に現れるモデルは運動項のかたちを微調整しなければならず、自然な運動項を持つモデルでは効果が検知できないという結果の解釈に少し時間をかけたいと考えている。我々は上記の結果を得るのに場の量子論のin-in formalismを用いているのであるが、その適用領域を吟味することや、仮に将来観測可能なスペクトルの変更を得るためには運動項に微分結合が不可欠、というのが確定したとしたら、どのような状況でそのような結合が超弦理論から導出されるかを考える必要がある。そして、超弦理論的にもっともらしいモデルからそのような効果が期待できる状況になったら、その理論モデルの妥当性の判断のためのCMBの計算を行ないたい。
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Journal of Cosmology and Astroparticle Physics
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Classical and Quantum Gravity
巻: Volume 31 Number 12 ページ: 125003-1, 13
doi:10.1088/0264-9381/31/12/125003
巻: Volume 2014 November ページ: 032-1, 032-20
doi:10.1088/1475-7516/2014/11/032