有機薄膜トランジスタは従来の無機デバイスでは実現困難な魅力を有する電子デバイスである。当該デバイスを化学センサーへと適用する研究は未だ萌芽段階にあり,先行研究は非常に少ない。そこで本研究では,有機デバイス工学と超分子・分子認識化学を融合させた学際的研究をおこない,分子認識現象に基づいた有機薄膜トランジスタ型化学センサーの開発に取り組んだ。 平成27年度は,まず金属カチオン種の検出に成功した。一方,アニオン種についてはリン酸イオン類の検出に挑んだ。リン酸イオン種は情報伝達や酵素反応に関連した重要な生体物質であるだけでなく,閉鎖水系の富栄養化など環境にも影響を及ぼす重要化学種である。本研究では,チオール基を導入したジピコリルアミン亜鉛(II)錯体をリン酸イオンレセプターとして用い,トランジスタのゲート電極上に自己組織化単分子膜 (SAM) として導入することで,当該イオン種の検出をおこなった。作製したセンサーデバイスによって,各リン酸イオン種 (リン酸一水素イオン,ピロリン酸イオン,ATPなど) に対して交差応答的な検出信号変化が得られることがわかった。このような交差応答的信号変化は,複数の化学種を同時分析可能なセンサーアレイ構築に寄与する重要な知見である。 また,同センサデバイスをリン酸化タンパク質 (α-カゼイン) の検出に適用したところ,当該タンパク質に対し選択的な応答を示した。 本研究のこれまでの成果を総括すると,分子認識化学に基づき設計された人工分子レセプターを有機薄膜トランジスタ中に組み込むことで,金属カチオン種やアミン性化合物,中性分子種 (糖) ,リン酸アニオン種などの小分子のみならず,タンパク質という巨大生体分子も認識可能なセンサデバイスの開発を達成し,生体関連化学の発展に寄与し得る電子デバイスの構築に成功した。
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