研究実績の概要 |
当研究では、既存の大環状分子が有する対称性とは相容れない希有な対称性を有する新規な大環状配位子の開発と金属錯体ユニットの環状配列の実現、およびその特異な形状に根ざす機能の探索を目的とした。平成26年度までに、大環状配位子のための二官能性モノマーの設計・合成と、オリゴマー環化反応による大環状配位子の創出を達成した。本平成27年度では、得られた大環状配位子と金属錯体との反応による多核錯体の合成およびその機能開拓を行った。 ピリジルカルバルデヒド部位とアミノフェノール部位を有するモノマーに導入する官能基とオリゴマー環化反応の条件を精査することで、モノマーから環状六量体を高選択的に合成し、単離することに成功した。内側に向いたN,N,O三座キレート配位部位を有するこの大環状配位子と亜鉛アセチルアセトナート錯体を反応させ、六つの亜鉛が内孔に並んだ大環状金属錯体を得た。亜鉛に結合したアセチルアセナート配位子が置換活性であることを活かし、カルボキシ基の亜鉛に対する配位力を利用して種々のカルボン酸の認識を試みた。その結果、興味深いことに、大環状金属錯体はジカルボン酸の中でも二分子のピメリン酸を選択的に認識し、二つの環状六核亜鉛ユニットが積層した特異な双曲放物面形状を有するホストゲスト錯体を形成することが明らかとなった。構造は核磁気共鳴分光・質量分析・単結晶X線回折により詳細に決定された。二量体構造は擬似的なC2対称性を有し、カルボキシ基による亜鉛間の架橋、環状分子間でのフェノキシ酸素-亜鉛の配位結合、およびπ-π相互作用が構造形成に寄与していた。本研究で創出された大環状分子は、希有な双曲放物面形状をもち、複数の置換活性な金属中心を内孔に集積した環状錯体として、特異的分子認識・触媒反応場などへのさらなる応用が期待される。
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