生体の細胞膜に存在するイオンチャネルにおけるイオン分離機構に着想を得て、本課題では多孔性配位高分子(PCP/MOF)を選択的ガス分離チャネルに見立てた斬新な機構で高選択的ガス分離を達成する「チャネル型ガス分離膜」の開発を目的とした。 昨年度までの検討の結果、PCP結晶表面からの重合開始反応の最適化が非常に困難であることがわかり、研究対象をPCP結晶のフレームワークの最小単位である「ケージ状錯体」に着目し、研究を展開した。具体的には、有機-金属多面体(MOP)と呼ばれる有機金属ケージ錯体の表面を重合性官能基で修飾し、スチレンやアクリレートモノマー存在下、表面開始重合をおこなった。本複合体は、ナノサイズのMOPをコアにして高分子をグラフトした構造を有しており、ポリマー素材の特有の熱可塑性を持ち、様々な有機溶媒に可溶であった。本複合体の単分子、およびバルク状態でのナノ構造は、原子間力顕微鏡および小角X線散乱で詳細に明らかにすることができた。溶液塗布法により本複合体をフィルム化し、二酸化炭素/窒素混合気体からの二酸化炭素分離性能を試験したところ、中程度の分離選択性を示すことがわかった。今後の研究において、グラフト高分子およびMOPコアの最適化を行うことで高選択性を実現できる可能性が十分に期待できる。 以上、本課題においてPCPおよびMOPをコアとする高分子グラフト手法を確立し、得られた複合体をフィルム化させることで新規のガス分離メンブレンを得ることに成功した。
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