研究課題/領域番号 |
26888012
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
阿野 勇介 九州大学, 先導物質化学研究所, 学術研究員 (20736813)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 動的面不斉 / 不斉合成 / 中員環アミン |
研究実績の概要 |
有機合成化学の重要な研究課題の一つである不斉合成反応の開発において,主たる研究対象は自然界に豊富に存在する炭素中心性不斉の構築であり,そのようなキラリティーを有する分子は,立体化学が熱的に変化しない「静的なキラル分子」である.一方,エナンチオマー間で熱的なラセミ化が進行する「動的なキラル分子」の研究も行われているが,室温下で速やかにラセミ化する高度に動的なキラル分子の場合,その光学活性体の調製が困難であるために従来の不斉合成化学の研究対象から除外されていた.これに対して本研究では,高度に動的な面不斉を有する中員環アミン類の立体化学挙動の制御と変換を組み合わせた不斉合成法の開発を行なっている. 今年度の研究は,まず第一にヘテロ原子を含む置換基をE-アルケン部位に導入した面不斉中員環アミドを新たに設計,合成し,その立体化学挙動の精査した.具体的には,その後の変換が容易であると考えられる酸素や窒素,ハロゲンを含む官能基を導入を試みた.また,合成における鍵中間体として,E-アルケン部位をヨード基で置換した面不斉中員環アミドを設定し,クロスカップリング反応による置換基の導入を実施した.合成した中員環アミドはいずれも室温下で速やかにラセミ化が進行し,高度に動的な面不斉を有することが明らかになった.続いて,新たに合成した面不斉中員環アミドの反応性を調べるとともに,これを中心性不斉分子に変換する反応の開発に取り組んだ.アルケンへの付加反応や分子内の渡環反応が立体特異的に進行することに加えて,金属触媒による変換も立体特異的に進行することが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,(1)動的面不斉を示すヘテロ中員環分子の立体化学的安定性の精査と,それに基づく面不斉分子の設計および合成,(2)新たに合成した面不斉分子の動的立体化学挙動を利用した光学分割法の開発,(3)面不斉分子の光学活性体を用いる立体特異的変換反応の開発,の3つのテーマについて研究を進める計画である.今年度は(1)の課題について重点的に研究を実施した.その結果,多様な面不斉中員環アミドの合成に成功するとともに,その立体化学的安定性に関する情報が得られた.また,(3)の課題に関しても予備的な実験を今年度内に実施しており,面不斉中員環アミドの反応性に関するいくつかの知見を得るとともに,これに基づくを利用した新しい変換反応の開発も試みている,したがって,(3)の課題については次年度内に成果が得られると予測している.(2)の課題は次年度に実施する計画であるが,(3)の課題で得られた知見を活用して次年度内の達成を目指す. 以上の点から,本研究は申請時の研究計画に沿って研究が進捗しており,一定の成果が得られていると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は高度に動的な面不斉中員環アミドの設計と合成,およびその立体化学的安定性の精査を中心に研究を進め,高度な動的面不斉を有する中員環アミドの立体化学挙動に関する知見が得られた.そこで,今後は動的光学分割法や炭素中心性不斉分子への変換反応の開発に重点をおいて研究を推進する. これまでの予備的な検討から,面不斉中員環アミドと金属錯体が良好に反応することを見出だしている.特に白金錯体との相性がよく,面不斉分子-白金錯体は安定に単離できることが明らかになっている.そこで,キラル白金錯体を用いた動的光学分割法の開発を目指す.また,炭素中心性不斉への変換については,本研究者が所属する研究室で見出だしているアルケンに対する付加型,あるいは渡環型の立体特異的反応に加えて,触媒反応による変換法の開発にも取り組み,本手法の有用性の拡大を目指す.
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