研究課題
タンパク質の天然構造構築反応(フォールディング)にはチオール基をもつシステイン間でのジスルフィド(SS)結合(一種の構造安定化因子)の形成が連動する。このいわゆる酸化的フォールディング反応は試験管内において非常にゆっくりと進行するうえに正しい天然構造を高収率で得ることは難しい。本研究課題では、効率的な熱伝導、迅速な分子拡散を可能にするマイクロフロー反応場(マイクロリアクター、MR)を利用し、安価でごく一般的なSS架橋剤によるSS結合形成を物理的に加速させることで、誰もが迅速かつ効率的にフォールディング反応を行うことのできる新手法の確立を目指す。MRは有機合成分野、分析化学分野において広く普及し始めているが、タンパク質の酸化的フォールディング反応をMR技術によって効率化を目指した研究例は類を見ない。したがって、初年度は分子内に4個のSS結合を有する単純な一本鎖タンパク質、ニワトリ卵白リゾチーム(HEL)をモデルタンパク質として、研究ノウハウを蓄積するとともに、フォールディング反応に対するMRを用いた新手法の有効性を検討した。還元処理によってSS結合が開裂された変性-還元型HELの溶液とフォールディング反応を促す酸化還元剤の溶液をMR流路へそれぞれ流入し、マイクロフロー系内にて反応を進行させた。一般的なチューブ内での条件(いわゆるバッチ法)とMR法で得られたフォールディング収率を比較したところ、期待通り、MR法を用いることで、従来のバッチ法より反応速度を向上させることができた。これは、マイクロ流路において、タンパク質と酸化還元剤の分子拡散速度が促進され、効率的な分子間反応がなされたためであると考えられる。MR法によるフォールディング反応の促進を実験的に示した初めての例であり、現在は異なる一本鎖のモデルタンパク質に同様の手法を応用し、汎用性を検証している。
2: おおむね順調に進展している
初年度は一本鎖タンパク質をモデルとして、MR技術の酸化的フォールディングに対する有用性、汎用性を示すことを計画していた。当該研究資金の運用以前よりバッチ条件における反応条件の最適化などを周到に準備を進めてきたため、マイクロリアクター(MR)装置の導入後、短い期間で当初予定していた研究実験を遂行することができた。
一本鎖タンパク質のMR技術を用いた酸化的フォールディング研究についてはおおむね研究成果をまとめる見通しがついた。しかしながら、現在ガラス製のMRを使用しているためタンパク質のガラス吸着が問題となっている。MRの素材を変更しガラス吸着を抑え、不足データを取集する必要がある。しかし、いずれにしても27年度内に研究成果を学術論文誌に投稿できるものと考えられる。また、次年度はヘテロダイマー型ペプチドホルモン、インスリンのMRを用いた酸化的フォールディング研究に着手する。インスリンはA鎖とB鎖の構成ペプチドが2つのSS結合によって連結された特殊な構造をもつ。本来、インスリンのフォールディングに際し、構成ペプチド鎖、A鎖とB鎖を直接的な鎖間SS架橋によって達成することは極めて難しいが、MR法により効率的な分子間反応がなされれば、迅速かつ高収率でインスリンのフォールド体を得られるものと考えられる。すでにバッチ法によるフォールディング反応の条件検討(pH、温度、ペプチド濃度など)を行っている。今後、最適条件をMR法にも適用し二本鎖タンパク質のフォールディングに対するMRの有用性を検証する予定である。
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ChemBioChem
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Chemistry-An Asian Journal
巻: 9 ページ: 3464-3471
10.1002/asia.201402726