研究実績の概要 |
まず昨年度整備したCE-UV分析条件において、申請者がノウハウを持つlarge-volume sample stacking (LVSS) 法 (Anal. Chem. 2010, 82, 6504) とDynamic pH junction法 (Anal. Chem. 2000, 72, 1242) を組み合わせた新規濃縮法について検討した。結論として、様々なpH、電気伝導度条件の泳動液・試料マトリクスを試用したが、100倍以上の良好なペプチド濃縮を実現することはできなかった。そこで、既にペプチド分析で実績のあるtransient isotachophoresis法 (Electrophoresis, 2008, 29, 1565) に注目し、LVSSと融合を試みたところ、分離能をそこなうことなく最大1000倍程度の高感度化を実現できることがわかった。また高塩濃度の試料マトリクスを許容できるため、強陽イオン交換クロマトグラフィーによる試料前処理との相性も良いことが示唆された。本法では分析開始時にキャピラリーのMS側末端部へ液滴を付着させることで通常のCEと同様に濃縮が可能であり、アミノ酸・ペプチド・糖鎖・核酸・タンパク質などの分析に利用できることを確認した。 CE-MSについては昨年度に引き続き、並列化に最適なエレクトロスプレーイオン化 (ESI) の最適化を行った。昨年度の研究により、流量が少なければ少ないほど高密度な並列化が容易になることが示唆されたため、低流量を実現可能なシースレス型のCE-MSシステム構築した。内径5 μmのキャピラリーを壁厚5 μm程度までフッ酸でエッチングすることで、約250 pL/minの超低流量で良好なESIシグナルを得ることに成功した。またシースレス型CEに三連四重極型の質量分析計を接続し、MS/MS分析を行うことでモデル試料であるAngiotensin IIの500 pMの検出を実現した。昨年度の研究室移転により研究遅延の影響で、本年度は新ESIシステムの並列化にまで至らなかったが、今後本研究コンセプトの実用化に向けてさらに研究を推進する予定である。
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