研究課題/領域番号 |
26889001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤村 奈央 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40732988)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 疲労損傷評価 / 表面粗さ / ステンレス鋼 |
研究実績の概要 |
本研究では,地震荷重を受けた材料の疲労損傷量を繰返し塑性変形によって変化する材料の表面粗さに基づいて評価する手法の提案を目的とし,地震に含まれる様々なひずみ速度の波を考慮するため,ひずみ速度が疲労特性や表面粗さの変化に及ぼす影響を明らかにすることを目指している.平成26年度は,高いひずみ速度で低サイクル疲労試験を行うための試験システムについて検討した.具体的な検討内容を以下に示す. これまで申請者が実施したひずみ速度0.4%/secの低サイクル疲労試験では,応答周波数が0.2Hzまでの直径変位計を用い,砂時計型試験片の最小径部における直径変化を検出して負荷ひずみを制御した.しかし,地震波には周波数が数Hz以上の波形も含まれるため,ひずみ速度の影響を調べるためには応答速度が0.2Hz以上の変位計と疲労試験機が必要である.そこで本研究では,所属研究室で設計開発した応答性のよい電気油圧サーボ式軸荷重疲労試験機と,この試験機用に作製した,応答周波数60Hzまでの検出器を備えたクリップ型接触式変位計を用いる.まず,これら試験機と変位計を含む試験システムを用い,荷重制御の下で試験片に振幅300kgfの繰返し負荷を10種類の周波数(0.1,0.4,1,3,5,8,10,20,30,50Hz)で与え,システム全体の応答性を検討した.その結果,0.1~8Hzと20Hzで安定した応答波形が得られた.次に,ひずみ速度0.4%/secの下で径ひずみ制御疲労試験を行い,以前の試験システムで取得した結果と疲労寿命を比較し,試験結果においてシステムの違いによる差異がないことを確認した.また,同じひずみ速度だが,以前のシステムでは実施できなかったひずみ範囲0.76%,周波数0.263Hzで疲労試験を行い,表面粗さの変化を取得した.これは表面粗さ測定に基づく損傷評価の適用範囲を検討する上で重要な結果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,表面粗さの変化におけるひずみ速度の影響を明らかにすることを目的としており,その検討を行うためにはまずひずみ速度0.4%/sec(周波数0.2Hz)以上の試験速度で低サイクル疲労試験を行うことができる試験システムの構築が必要である.そのため,当該年度は主に試験システムについて検討を行った.その結果,周波数0.1Hz以上の試験速度で低サイクル疲労試験を実施するための疲労試験システムを構築することができた.また,ひずみ速度はこれまでに申請者が実施した研究と同じだが,この試験システムを用いて,新たなひずみ範囲・周波数条件で疲労試験を行い,表面粗さの変化を取得することができた.以上,次年度に向けて疲労試験システムの構築が完了しただけでなく,表面粗さ測定に基づく疲労損傷評価の適用範囲についても検討することができたことから,本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,平成26年度に検討した試験システムを用いて,オーステナイト系ステンレス鋼SUS316NGに対し,ひずみ速度0.4%/sec以上(周波数0.2Hz以上)の高ひずみ速度疲労試験を実施して,疲労寿命など基礎データの取得と表面粗さ測定を行う.そして,繰返し負荷を与えた材料の疲労寿命や表面粗さの変化傾向に対してひずみ速度が及ぼす影響を検討する. まず,本供試材の低サイクル疲労特性に対するひずみ速度の影響を明らかにするため,ひずみ速度0.4%/secよりも高いひずみ速度で低サイクル疲労試験を実施し,疲労寿命を取得する.そして,これまでの研究で取得したひずみ速度0.4%/secでの基礎データと比較することで,ひずみ速度の違いによる寿命の差異を検討する. 次に,高ひずみ速度(0.4%/sec以上)で繰返し負荷を与えた材料の表面粗さ測定を行う.表面粗さ測定では,3種類の表面粗さ:算術平均粗さRa,最大高さ粗さRmax,最大谷深さRvを取得し,繰返し数の増加に伴う各表面粗さの変化傾向を調べる.これらの基礎データとこれまでの研究で取得した表面粗さの変化傾向を比較することで,表面粗さの変化においてひずみ速度の違いによる差異を明らかにする.また,表面粗さの変化傾向については,レーザー顕微鏡を用いた表面観察を通して損傷機構を考察し,材料表面に形成される凹凸の成長過程等にひずみ速度が及ぼす影響を検討し,定量的に評価する.
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