研究課題/領域番号 |
26889006
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
青木 英恵 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (60733920)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | マイクロ波アンテナ / 磁性-誘電ナノ複相膜 / 高周波軟磁気特性 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目的は、磁性-誘電ナノ複相材料を用いて、マイクロ波アンテナの小型化・高性能化を実現することである。当初の研究計画に従い、各協力研究機関と密に連携して、下記(1)~(3)の項目について、実施可能分から明らかにした。 (1) 磁性-誘電ナノ複相膜の高周波電磁気特性: 26年度は、磁性層としてCoFe-AlNナノ複相膜を選択し、タンデムスパッタ法を用いて(CoFe-AlN)/(AlN)多層膜を作製した(東北大増本研)。層構造を変化させることにより、膜は大きな透磁率(μ)を有し、1.7GHzに磁気共鳴吸収を示す優れた高周波軟磁気特性を示す。申請者は、磁気特性と高周波電磁ノイズ抑制効果とが定量的な関係性を持つことを明らかにした(国際会議で発表済、論文1報受理)。 (2) 電磁界シミュレーションを用いたスパイラルアンテナの設計: 磁性体と誘電体の両方を挿入した場合は、アンテナ特性に与える影響を個々に評価することは難しい。26年度は、誘電層のみを挿入した小型スパイラルアンテナの設計を行った(東北大山口研)。具体的には誘電層としてAlNおよびSiO2を検討した。円形スパイラル素子構造では、SiO2を用いた場合、4, 17および32 GHzでそれぞれ-11, -13および-35 dBのリターンロスである計算結果が得られた。 (3)スパイラルアンテナ素子の作製: リフトオフを用いた微細加工プロセスによって(2)で設計に基づき、外径2-4mm、3巻の円形スパイラル素子を作製した(電磁研)。アモルファスSiO2層を挿入したアンテナの1-30 GHzにおける高周波電気特性を評価したところ、3.9および17.6 GHzでそれぞれ反射係数の最小値-12および-21 dBを示し、計算結果との良い相関が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、26年度に(1)磁性-誘電ナノ複相膜の高周波電磁気特性の調査、(2)電磁界シミュレーションを用いたスパイラルアンテナの設計までを予定していたが、実験結果をシミュレーションに反映させるために、27年度の(3)スパイラルアンテナ素子の作製の一部を26年度に実施した。(1)~(3)の達成度について以下に記述する。 (1) 磁性-誘電ナノ複相膜の高周波電磁気特性: (CoFe-AlN)/(AlN)多層膜を作製し、高周波軟磁気特性とその磁気共鳴現象にともなうGHz帯の近傍磁界抑制効果との関連性を明らかにした。その結果から、層構造を変えたときの材料の磁気特性と高周波近傍磁界抑制効果の定量的な関係性から、アンテナへの十分な適用性が示された。したがってナノ複相膜作製の達成度は高い。 (2)電磁界シミュレーションを用いたスパイラルアンテナの設計: 磁性-誘電ナノ複相膜の応用を考慮し、磁界型スパイラルアンテナを選択し高周波電磁界シミュレーションを行った。周波数依存性を有する磁性膜を適用すると、メッシュ数が増加し計算が困難になることや磁性層の影響を判断しにくくなることから、誘電膜のみの適用とし、1-30GHz帯で電波放射するスパイラルアンテナを設計した。現在、磁界強度が大きい部分に磁性膜を装荷して電磁界解析を行っている。 (3)磁性-誘電層を挿入したスパイラルアンテナの作製と測定:誘電層を挿入したアンテナ素子を作製し、プローブを用いた測定で、1-30GHzにおける高周波電気特性を明らかにした。実験結果と計算結果が一致し、シミュレーションモデルを用いた素子作製が適切であることが示された。また、アンテナの研究者と測定結果について考察を行うことで、4mmの小型アンテナの指向性および利得の評価・解析では、冶具や周辺の測定環境の整備が必要であるといった課題を抽出することができた。
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今後の研究の推進方策 |
26年度の結果から、(1)アンテナ素子に磁性層を適用した場合のシミュレーションおよび(2)数mmの小型アンテナの指向性・利得の測定が課題として挙げられる。以下に、それぞれについて研究遂行上の問題点と推進方策を挙げる。 (1)磁性膜を挿入する範囲によって解析時間が増加することが問題として挙げられる。波長短縮効果を損なわないよう、磁界強度が大きいスパイラルの導線端部に磁性膜を装荷し、限定された適用範囲のみの解析を検討することで、電磁界解析の時間短縮を図る。 (2)アンテナが小さいため、高周波素子同士の整合接合が困難であることが問題として挙げられる。アンテナ専門の研究者の助言を得てマイクロプローブやそれに準じた数100μmの導線を用いてケーブルと接続させることを検討し、1-30 GHz帯のアンテナ特性を明らかにする。
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