研究課題/領域番号 |
26889010
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小嶋 隆幸 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (10732183)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 触媒 / 電子スピン |
研究実績の概要 |
磁性金属の触媒機能に対する価電子スピンの影響を調べるため、本年度は種々の磁性合金についての触媒特性評価実験を行った。水素還元熱処理により、表面酸化膜を容易に除去できるNi系およびCo系の合金を主に用いた。特に、キュリー温度が低く、強磁性状態と常磁性状態の比較がしやすいNiを主成分とするNi-Cu、Ni-Cr、Ni-Geなどの固溶体合金を選択した。アーク溶解および単ロール液体急冷法により得た試料をAr雰囲気下で熱処理することにより、キュリー温度を制御した均質なリボン状固溶体合金試料を作製することができた。
作製した合金触媒について、スピンの影響が理論的に予測されているO2の解離吸着を伴うCOの酸化反応、低温でも反応が進行しやすいエチレンの水素化反応、遷移金属の特徴(反応選択性の違い)が現れるメタノールの水蒸気改質とその関連反応を用いた触媒反応試験を行い、転化率や反応の選択性といった触媒特性を評価した。触媒特性の合金元素・組成依存性、温度依存性についてのデータを得ることができた。しかしながら、現時点では触媒機能に対する価電子スピンの影響を明らかにできていない。試料の表面積が小さいうえ測定に要する時間が長いため、被毒などによる触媒特性の経時変化が生じていることが主な原因であると考えている。今後、この点を解決し研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定通りに均質なリボン状固溶体磁性合金触媒を作製でき、いくつかの反応に対する触媒特性を評価することができたが、価電子スピンの影響を調べるような正確な測定を行うには、試料の表面積と測定精度が不十分であることが判明した。試料作製方法の変更および測定系の再構築が必要となり、その分研究が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
試料の表面積が小さいという問題を解決するため、今後は遊星ボールミルを用いた湿式粉砕によりサブミクロンサイズの粉末試料を作製し、触媒特性評価に用いる。それでも表面積が不十分な場合、アルカリもしくは酸を用いた選択溶出処理と含浸合金化処理により高表面積試料を作製する。また、現在使用している触媒評価装置では測定精度が悪いうえに長時間を要するため、専用の触媒特性評価システムを構築中であり、測定精度を高めて短時間で自動測定できるように試みている。
比較的硬質の固溶体合金でもボールミルにより粉末化できることは確認済みであり、様々な磁性合金固溶体粉末を作製し、自動触媒反応試験により系統的に大量のデータを取得する。それらの合金について電子状態(状態密度曲線)を計算し、実験で得た触媒特性と比較することで、価電子スピンの影響を調べる。また、SPring-8でX線光電子分光測定を行い、電子状態を実験的にも評価する。
以上の粉末における研究が順調に進んだ場合、代表的な試料を選んで面方位が異なる薄膜試料を作製し、閉鎖循環系による触媒特性評価を行う。さらに、表面の局所電子状態密度曲線を計算し、実験結果と比較することにより、価電子スピンと触媒特性の関係についてより深く考察する。
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