前年度は、試料の表面積が小さいうえ測定に要する時間が長いため、触媒の経時劣化が大きく、特性を正しく評価できないという問題が生じた。そこで今年度はボールミルを用いた試料の微粉砕を試みた。条件の最適化により最大50 m2/g以上の表面積を有するNi系合金試料を得ることができた。しかしながら、微粉化したNi-Ge試料ではDSC曲線に磁気相転移点が現れず、熱磁化曲線から見積もったキュリー温度が母合金の値から大きく変化していた。微粉化プロセスにより合金組成が不均一になったことが主な原因と考えられる。また、条件を最適化してもボールと容器からのコンタミを避けることが不可能であった。さらに、アセチレンの水素化反応試験を行った場合、反応性が高すぎて重合によりオイルが生成して触媒を劣化させ、一酸化炭素の酸化反応試験では、試料の不可逆酸化により触媒特性を正しく評価することができなかった。 そこで、次に高速・高精度の触媒特性評価システムを構築した。これにより、低表面積試料でも経時劣化を抑えて再現性の良い測定が可能となった。また、ターゲット反応にプロピンの水素化反応を採用した。プロピンではアセチレンのような重合が生じにくく、C4以上の炭化水素のように多くの異性体を持たないため、反応機構を考察しやすい。Ni系合金リボン試料について触媒特性を評価したところ、十分に精度の良い測定を行うことができたが、磁気相転移による明瞭な触媒特性変化は観測できなかった。新しい測定系の構築が遅れたこともあり、研究期間内に計画通りの成果を得ることはできなかったが、研究の余地は多く残されており、期間終了後も継続して本研究を行う。具体的には、酸化による特性変化が無い貴金属と磁性元素の合金微粒子試料を用い、磁性(スピン)の影響が現れやすい低温(室温)での酸素分子が関係する反応に対する触媒特性を評価する計画である。
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