三陸沿岸集落は、近代以降の大きな津波災害に限定しても明治三陸津波(1896(明治29)年)、昭和三陸津波(1933(昭和8)年)、チリ地震津波(1960(昭和35)年)そして東日本大震災(2011(平成23)年)と4度の津波災害を受けた津波常襲地域である。なかでも昭和三陸津波後の復興過程においては、国から国庫補助および低利融資を受け岩手県内で44集落において高所移転事業をはじめとした復興事業が実施され、それらは現在でも「復興地」等と呼ばれるなどその後の集落形成に大きな影響を与えたと考えられる。しかし、計画の実施状況や計画位置等の実態についてはほとんど明らかになっていない。そして、それら「復興地」における東日本大震災による被害については、完全に被害を免れた集落から被害を受け完全に流出してしまった集落まで集落ごとに被害程度の大きな差が見受けられる。 そこで、本研究ではそれら復興地全44集落における高所移転事業をはじめとする当時の復興計画・事業につき、その実態を明らかにするとともに、東日本大震災による被害の差を分けた要因分析を含めた昭和三陸津波後の復興計画の評価を行うことで、復興事業が進む東日本大震災の被災地や今後津波災害が想定される地域における安定した居住地を築くための示唆を抽出した。今後については、本研究においては対象外とした岩手県内で高所移転を行わなかった都市的集落や宮城県内の復興地との比較研究を通して、三陸沿岸集落全体の昭和三陸津波以降の集落変容を解明していきたいと考えている。
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