研究課題/領域番号 |
26889043
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
熊谷 直人 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 特任講師 (40732152)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 量子ドット / 光伝導アンテナ / 分子線エピタキシー / テラヘルツ |
研究実績の概要 |
本研究ではGaAs基板上で完全に格子緩和させたInGaAs層中に埋め込まれたErドープInAs量子ドットのピコ秒オーダーの非常に速いキャリア緩和と、1.55um光通信波長帯での吸収を持つこと、数MΩ/sq.の高いシート抵抗に着目し、この量子ドットの積層構造について、面内の光伝導特性の解明とテラヘルツ検出光伝導アンテナへの応用を検討する。従来の低温成長GaAsやInGaAsのバルク系と異なり、ドットや積層構造の制御による高い自由度をもった材料設計が期待出来る。はじめに、1.55umのCW半導体レーザを励起光に面内光電流の励起強度依存性を評価すると、暗電流に対して10倍の電流が得られた。また、光電流の異方性を確認するために、バイアス電圧の印加方向を[110]と[1_10]で励起強度依存性比較した。両者の依存性に大きな違いはなく、積層試料のas-grwon表面をAFMで観察したところ、表面形状に異方性は殆ど見られなかった。CW励起時の光電流の移動度を吸収率、励起強度、ホール測定結果からの暗時のキャリア密度を用いて見積もると、135 cm2/Vsの移動度が得られた。これは一般的なLT-GaAsの150~200 cm2/Vsに迫るもので、GaAs基板上で1.55umゲート光動作する光伝導アンテナ材料として期待が出来ると考えられる。また、層構造依存性を調べるために、ドットを埋め込むInGaAs層のIn組成依存性と成長温度依存性を調べるためにの試料を分子線エピタキシーにより作製した。これらの試料の詳細な評価はまだ途中であるが、8MΩ/Sqという従来の1.55umゲート光動作のための低温成長InGaAs/InP系よりも高シート抵抗が確認できた。この試料についてはフォトリソグラフィにより典型的な光伝導アンテナ構造作製を作製、電極部分をメサ加工することで電極間抵抗を130倍に増大できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.55um励起光により、暗電流に対して10倍もの面内光電流を確認し、その異方性の有無や、アンドープ試料との比較、光電流の移動度などの基本的な評価を行い、ErドープInAs量子ドットがテラヘルツ光伝導アンテナ材料として期待できる結果となったこと。また、InGaAs層のIn組成依存性や、成長温度依存性を調べるために作製した積層試料や、より高いErドープ濃度試料について、これらのキャリア緩和時間等の予定していた評価が未だ出来ていないが、次年度に予定していた光伝導アンテナ構造の試作をフォトリソグラフィにより行い、電極のウェットエッチングによるメサ加工まで出来たことから光伝導アンテナ作製プロセスをほぼ確立し、全体の進捗としては概ね順調と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに作製したInGaAs層のIn組成依存性及びドット成長温度依存性の試料について、透過率変化の時間分解測定によりキャリアの緩和時間や通常の透過測定による1.55um帯の光吸収の確認を行う。また、試作した光伝導アンテナ素子について、アンテナ動作時に実際用いるフェムト秒パルスレーザ励起による光伝導特性の評価を行う。その結果によっては試行的にテラヘルツ検出をテラヘルツ時間領域分光法により行う。これらの評価を受けて得られた知見を元に、より速いキャリア緩和時間の実現を図るため、新規に量子ドット積層構造を分子線エピタキシーにより作製する。この際には層間距離などの層構造依存性を調べるための試料も作製する。これらの試料に対して、光伝導アンテナ構造を作製し、アンテナ構造での光電流特性評価、さらにテラヘルツ検出特性をテラヘルツ時間領域分光法により行う。これらの結果からErドープInAs量子ドット積層構造を光伝導アンテナへ応用するにあたり、どのようなパラメータ、または構造がテラヘルツ検出特性に影響するのか知見を得られるものと期待する。
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