1. 歪緩和InGaAs層に埋め込んだInAs量子ドット積層試料を用いて前年度までに作製した光伝導アンテナ構造に対し、実際のアンテナ動作時と同様の波長1.5ミクロン帯フェムト秒超短パルスレーザ(80MHz)を用いて光励起し、アンテナ電極間を流れる光電流の励起光強度依存性を評価した。また、同波長1.5ミクロンのCWレーザによる励起光強度依存性についても測定を行った。暗電流に比べて明瞭な光電流が確認され、パルス、CW励起両者の励起光強度依存性を比較するため、励起強度のピークパワー密度依存性により光電流のピーク値を評価したところ、10~10MW/cm2の6桁に渡る広いレンジで線形な光電流の増加を確認できた。100MW/cm2では過飽和吸収による光電流増加の飽和傾向が見られ、その飽和強度は約90MW/cm2と見積もられた。 2. さらなるキャリア緩和の高速化を図るべく、キャリア緩和時間について、歪緩和InGaAs層のIn組成依存性、量子ドット層成長温度依存性を透過率変化の時間分解測定により評価したが、psオーダーからの著しい高速化や、組成や成長温度に対するはっきりとした依存性は確認できなかった。 3. 量子ドット層の光電流のパワースペクトル周波数特性を透過率変化の時間分解スペクトル測定結果から評価した。キャリア緩和の時間曲線である透過率変化の時間分解スペクトルを実際に測定し、このフーリエ係数の絶対値の自乗が光電流パワースペクトルの周波数特性となり、アンテナ動作をさせなくても直接的に周波数特性を評価できる。量子ドットの場合、キャリア緩和の速い成分、遅い成分が混在しており、周波数特性への影響について調べると、~1THz以上の領域ではサブピコからピコ秒オーダーの緩和時間であれば感度曲線に余り影響しないが、0 Hz近傍でのDCノイズ分の大小には緩和時間が大きく影響することから、ある程度の速い緩和成分があれば、遅い緩和成分の抑制が重要であることがわかった。
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