ヒ素(As)は水環境中に存在する極めて毒性の高い汚染物質であり,世界中の人々の健康リスクを高めている.しかしながら高選択的かつ高感度なヒ素簡易分析法は考案されていない.応募者は最近,蛍光プローブが重金属の簡易分析法に有効であることを実証した.本研究の目的は,水環境中ヒ素の簡易定量に向け,新規ヒ素特異的蛍光プローブを開発することである.具体的には(1)ヒ酸(AsO43-)を特異的に認識し,蛍光特性を変化させる蛍光プローブを開発する,(2)開発した蛍光プローブの性能評価を行う.この蛍光プローブが開発できれば,簡易にヒ素濃度を定量することができ,汚染の早期発見や水環境中ヒ素の動態解明にも貢献するものと考える. 本年度も昨年度と同様,ヒ素特異的蛍光プローブの合成に取り組んだ.また,昨年度に合成したボロンジピロメテンとは別の蛍光プローブ母骨格であるフルオレセインとローダミン6Gを用い,水環境中の溶存有機物との相互作用を調べた.これは実際の水環境試料へ適用する場合に,溶存有機物との相互作用により分析への阻害が考えられるためである.溶存有機物として腐植物質であるフミン酸ならびにフルボ酸を試験に供した結果,フミン酸によるローダミン6Gの蛍光消光作用が大きかった.これはカチオン性のローダミン6Gとフミン酸との静電相互作用により生じ,疎水性斥力により強固になるためだと示唆された.本研究成果は2015年11月に国際誌であるWater Research誌に掲載された.
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