平成26年度は,普通鋼SS400のH形鋼を使用した強軸・弱軸断面の逆対称曲げせん断実験を実施し,その安定した履歴性状から曲げ降伏型の履歴型ダンパーとして有効であることを示した。また,解析的には,有限要素モデルによる弾塑性解析を実施し荷重変形曲線のループ形状や吸収エネルギー量に関する検討を行った結果,解析によりダンパー降伏後の荷重変形曲線および吸収エネルギー量を概ね再現できることが確認できた。 平成27年度は,H形鋼のエネルギー吸収性能の向上可能性を検討することを目的とした2シリーズの実験を実施した。曲げ降伏域のH形鋼端部の剛性・強度を低減させた3つのタイプのH形鋼部材に関する端部特殊加工シリーズ3体、およびSS400材との比較を二次目的としたステンレス鋼を使用したビルトH形鋼部材に関するステンレス鋼シリーズ4体である。なお,ステンレス鋼試験体については愛知製鋼㈱にご提供頂いた。 平成26・27年度に実施した11体の実験結果について,等価粘性減数定数,吸収エネルギー量,累積塑性変形倍率を算出し,H形鋼ダンパーの強度・変形性能などを比較検討した。その結果,以下の知見が得られた。 1)普通鋼SS400とステンレス鋼とではエネルギー吸収量に差異はなかった。2)端部特殊形状H形鋼は剛性と曲げ強度を小さくできるが,ウェブのせん断降伏により安定した履歴が得られなかった。ただし,ウェブをせん断補強することで早期に曲げ降伏させるダンパーの構築が期待できる。3)普通鋼SS400とステンレス鋼SUS304の強軸・弱軸ともに損傷度に差異は見られなかった。抽出した骨格曲線とバウシンガー部の曲線にも大きな差異はない。4)H形鋼端部を特殊加工した試験体のうちの1体は,せん断降伏により限界変形角が小さくなったが,同じ履歴則に対して累積塑性変形倍率が大きいことから合理的なダンパーとなる可能性がある。
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