研究課題/領域番号 |
26889076
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |
研究代表者 |
近藤 ゆりこ 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発本部開発第二部表面技術グループ, 研究員 (60733764)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | トライボロジー / イオン液体 / HiPIMS / 潤滑メカニズム |
研究実績の概要 |
平成26年度は、イオン液体との相互作用を支配する固体表面物性のうち、ダイヤモンドライクカーボン(以下DLC)の表面における炭素構造に着目することとした。 HiPINS(High-power impulse magnetron sputtering)法を用い、成膜中供給ガスをアルゴンのみとし、パルスのオン・オフ時間、投入電力、ガス流量、バイアス電圧など様々なパラメータを変更して成膜を行った。成膜したDLCに対し、ラマン分光分析による炭素構造評価を行ったが、現状ではこれらのパラメータの変更による炭素構造の変化は見られていない。また、同条件下でアルゴンにアセチレンを混合した供給ガスを用いて成膜を行った結果、表面粗さ・硬さには若干の差が見られたものの、XPS分析(X線光電子分光分析)などによる炭素構造の変化は確認されなかった。ただしHiPIMSによるDLC成膜に関する研究は多く行われているわけではなく、これらのパラメータが成膜に及ぼす影響は体系的に整理されていない。そのため、パラメータの変更による成膜プロセスの変化や膜質に関するデータの整理および、主に炭素構造を制御するパラメータの抽出に向けて、来年度も同様の内容に取り組む予定である。 また、上記成膜と並行して、既存のDLC膜およびセラミックスに対するイオン液体の潤滑特性に関する基礎調査を行った。摺動後表面に対しXPSを用いたスパッタリングによる深さ方向分析を行い、イオン液体の構造によって摺動後表面の化学状態が異なることが確認できた。ただし、スパッタリングによるトライボケミカル反応膜の破壊が懸念されるため、平成27年度はXPSを用いた角度分解法による非破壊の深さ方向分析を行うことで、より詳細な潤滑膜深さ方向分析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である「イオン液体と摺動表面との相互作用に着目した潤滑メカニズムの解明」に向け、現在まで摺動表面改質およびイオン液体の潤滑特性に関する基礎調査に取り組んできた。摺動表面がイオン液体の潤滑特性に影響を及ぼす因子としてDLCの炭素構造に着目し、それを制御する成膜パラメータは未だ確定されていないものの、様々な成膜パラメータによる成膜プロセスの変化、硬さ、膜構造についてデータの蓄積が進んでいる。今後これらの知見を元に成膜条件の最適化および膜表面の反応性制御に取り組む予定である。また、イオン液体の構造によって摺動後表面の化学状態が異なっていることが確認でき、この知見を元に今後はXPSおよびAFM(原子間力顕微鏡)を用いてさらに詳細かつ高度な分析および測定を行う予定であり、研究は概ね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初、TiAlN系硬質薄膜を成膜する予定であったが、TiAlNが貧潤滑性膜であること、イオン液体との潤滑特性において、DLCは膜質によって顕著な差が見られることが先行研究で確認されていたことを踏まえ、数ある表面物性のうちDLCの炭素構造に着目することとした。HiPIMS法による成膜においては、成膜パラメータの検討と成膜技術の確立を継続して行うこととする。 また、イオン液体の摺動表面反応膜および摺動表面との相互作用機構の解明を進めるため、XPSを用いた角度分解法による非破壊の深さ方向分析を行う。さらに、イオン液体の分子構造が潤滑膜強度に及ぼす影響を評価するため、AFMによるイオン液体分子膜の破断強度測定を実施する予定である。 なお、基礎的なイオン液体の潤滑特性評価および潤滑膜分析のためDLC成膜を外部委託する予定であったが、平成27年3月2日以降の研究計画において新たに用いることとなった分析手法に合わせて試験片の形状を変更する必要が生じ、成膜委託が延期となった。そのため、平成26年度分の研究費を年度内に使用することができなかったため、平成26年度補助金未使用分の次年度使用を希望する。
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