研究課題/領域番号 |
26889078
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研究機関 | 一般財団法人ファインセラミックスセンター |
研究代表者 |
小林 俊介 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 研究員 (60714623)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | BaTiO3 / 薄膜 / 透過型電子顕微鏡 / 走査型透過電子顕微鏡 / 誘電率 / 強誘電体 / パルスドレーザー堆積法 |
研究実績の概要 |
本研究の対象である誘電体はコンデンサーを形成する為の主材料であり、現代社会を支えるエレクトロニクス分野において必要不可欠な材料である。そこで、誘電率の高いペロブスカイト酸化物誘電体、すなわちBaTiO3薄膜に着目し、これまで報告されてきた誘電率よりも大きな誘電率を示すBaTiO3薄膜を作製することを目的とした。本研究では、高誘電率を達成するために、薄膜の不定比性と電極との界面構造に着目し、薄膜作製、物性測定及びTEM/STEMを用いた構造解析を高度に組み合わせ研究を進めてきた。 PLD法によりGdScO3基板上にSrRuO3電極を成膜し、化学量論組成及び不定比性を有するBaTiO3薄膜作製を実施し、XRDによる詳細な構造解析を行った。不定比性を有するBaTiO3薄膜でもエピタキシャルな方位にて薄膜成長しているが、面内の格子定数が基板と一致しない、つまりインコヒーレント成長することが明らかとなった。これは、不定比性により格子膨張することで、基板との格子不整合性が大きくなるためである。一方、化学量論組成を有するBaTiO3薄膜では面内の格子定数が基板と一致し、コヒーレント成長することを確認した。各々の薄膜において誘電率測定を実施した結果、不定比性を有するBaTiO3薄膜はこれまで報告されてきた結果と同様の低い誘電率を示し、化学量論組成BaTiO3薄膜では過去に報告されてきたBaTiO3薄膜よりも大きな誘電率を達成することに成功した。さらにSTEMにより作製した薄膜の構造解析を実施した結果、不定比性BaTiO3薄膜ではミスフィット転位が認められ、化学量論組成BaTiO3薄膜では原子レベル平坦な界面を形成していることを確認した。この結果は不定比性がBaTiO3薄膜の特性に与える影響に関する重要な知見を得たものと結論づけられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SrRuO3電極を堆積させたGdScO3基板上にTi過剰、化学量論組成のBaTiO3薄膜を作製し、誘電率測定及び自発分極値の測定を実施した。当年度目標としていた、BaTiO3薄膜の不定比性による誘電率変化を確認するとともに、これまで報告されてきたBaTiO3エピタキシャル薄膜よりも大きな誘電率を有する薄膜作製に成功した。この結果は結晶性の高い薄膜を作製することにより、本来のBaTiO3薄膜が有する特性を引き出すことに成功した為といえる。さらに、化学量論組成を有するBaTiO3薄膜において、XRDによる詳細な構造解析により、これまで考えられてきた構造とは異なる分極軸を有していることが明らかとなった。これまで、圧縮方向に歪みを加えることで、Ti原子はc軸方向に大きく変位すると考えられてきた。一方、本研究成果ではTi原子変位はc軸報告に対して、斜めを向いていることが示唆される。このことを確認するため、HAADF-STEM法により直接Ti原子を観察することで、確かにTi原子変位方向はc軸から傾いていることを確認することに成功した。さらに、格子不整合性に起因した歪みにより界面近傍でのTi原子の変位が変化していることを明らかにした。この界面近傍におけるTi原子の変位領域は約2 nmであり、過去に報告された低誘電率層の大きさと一致している。すなわち、低誘電率層の起源はTi原子変位量と密接に関係している可能性が高く、今後EELSを用いた局所領域の電子状態解析を実施し、構造解析結果と組み合わせ解析を進めていく。以上のことから、本研究は順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
前年度作製したBaTiO3薄膜よりも大きな誘電率、すなわち単結晶と同等以上の値であるε = 10,000以上を達成させるために、BaTiO3薄膜とSrRuO3電極界面に形成される低誘電率層の起源を明らかにし、界面制御を行うことで誘電率の低下を減少させる。前年度では、界面において2 nm程度の領域において、Ti原子の変位がバルク領域に対して変化していることをSTEMにより直接原子変位を観察することにより、明らかにした。今年度はより詳細に、BaTiO3薄膜の不定比性と界面における変化を検証する為に、世界トップレベルの性能を有するモノクロメーター搭載STEM装置を用いて、構造解析と電子状態解析の両側面から検証を行う。まず一つ目は、O原子だけでなくLiやHといった軽元素をも観察することに成功した最新の研究成果であるABF法を用いる。このABF法により、誘電率に大きく寄与していると考えられるTi原子だけではなく、O原子の観察も可能となる。次に40 meVという世界トップレベルのエネルギー分解能を誇る電子損失分光法を用いた電子状態解析から検証を行う。具体的には、僅か数nmという局所領域における誘電率を、EELSから得られる情報の一つである価電子励起スペクトルを利用し算出する。この価電子励起スペクトルの形状は試料の複素誘電関数に関係した損失関数に比例する。すなわち、価電子励起スペクトルを解析する事により、局所領域における誘電率を直接導出する事が出来る。これらABF法を用いた構造解析とEELSを用いた電子状態解析の両側面からBaTiO3薄膜とSrRuO3電極界面に形成される低誘電率層の起源を明確にする。ここから得られた知見を元に薄膜作製へフィードバックさせ欠陥構造制御さらには界面をも制御を実施し、単結晶と同等以上の誘電率達成を目指す。
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