研究課題/領域番号 |
26890001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小野澤 真弘 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70455632)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | テロメラーゼ / テロメア / DNA修復 / 鋳型配列挿入多型 |
研究実績の概要 |
テロメア配列挿入によるDNA-DSB修復は、ランダムにおきる事象であり、大部分の挿入修復は、核内に浮遊するmRNAを鋳型としたと考えられる配列によって起きる。これまで、2種類のI-SceI認識配列導入細胞株(F5:U937由来;A15:OVCAR8由来)を用い、180クローンにおよぶ挿入修復の中に、4例のテロメア配列挿入クローンを同定した。さらに、公開されているヒト全ゲノムシークエンスデータ(Complete Genomics社による多民族背景52人の健常成人全ゲノムシークエンスデータ)から、ヒト集団の中に”遺伝多形”として、テロメア配列挿入が存在することを見出した。同時にテロメア以外の配列挿入によっても繰り返しDNA修復が行われている痕跡を見出し、これらの鋳型配列挿入多型が進化的に保存された、胚細胞中でのDNA修復機構であることを見出し、この発見をまず論文化した(Onozawa M et al. Landscape of insertion polymorphisms in the human genome. Genome Biol Evol. 2015 Mar 4;7(4):960-8.)。 また、複数の腫瘍細胞株で、体細胞では発現が抑制されているTERTが高発現していることをRT-PCRによって確認した。当初SiRNAにより内在性のTERTを抑制することで、テロメア配列挿入イベントが低下することを確認しようとしたが、SiRNAによるTERT発現抑制が完全ではないこと、DNA-DSB部位へのテロメア配列挿入は鋳型配列挿入修復の中のわずか数%であることから、SiRNAによる内在性のhTERTノックダウンでは、有位差を示すのは困難と判断した。このため、addgene社より、正常およびドミナントネガティブ型のTERTプラスミドを手に入れ、現在哺乳類細胞での発現ベクターを作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究から派生したテーマを論文化することができた。同論文ではゲノム構造がレトロトランスポゾンによるコピー&ペースト(挿入)形式で上書きされるClass1の鋳型遺伝子挿入多型(TSIPs: Templated Sequence Insertion Polymorphisms) の他に、DNA二重鎖切断部位が、周囲に浮遊するRNAを鋳型にして、欠失+長い配列挿入で修復されるClass2のTSIPsが存在することを明らかにした。挿入配列は核染色体の遺伝子領域のエクソンやイントロンが多く、ミトコンドリアDNAやテロメア配列の挿入も認めた。Class2による修復痕跡はClass1多型よりも多く、進化的により新しい時期に起きていることが推察された。ある遺伝子のエクソンが、他の遺伝子のイントロンに挿入された場合、新たな遺伝子産物が生成される可能性があり、ヒトに限らず、全哺乳類のゲノム進化考える上で重要な発見となった。ヒト集団中でのテロメア配列挿入多型については、本論文では触れておらず未発表である。テロメア配列挿入については、TERTを高発現する腫瘍、胚細胞に共通した機構であると考えており、腫瘍細胞株でのデータを追加の上、TERTの新機能に焦点を当てて論文化予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、ヒトTERTおよび、そのドミナントネガティブ型の発現ベクターを作成中である。これらを、BRCA1, PTENをターゲットとしたTALENベクターと共発現することで、DNA損傷部のテロメア配列(TTAGGG)n挿入の増減を確かめる。この系が動けば、CRISPRによるDNA切断でも同様の実験を行う。これらの結果により、TERTを発現する腫瘍細胞株では、制限酵素(I-SCEI)、TALEN、CRISPRなど異なる方法によって導入したDNA損傷が、テロメア配列挿入によって修復されることを示し、さらに、人の遺伝多形としてもテロメア配列挿入が起きている未発表データを提示し、TERTを高発現する胚細胞でも同様の機序が働くことを示し、テロメラーゼの新機能として論文化する。
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