異種感覚統合の神経活動相関をラットの大脳内で見出すことを目的として、大脳皮質より神経活動を安定に記録するプロトコールの確立を目指した。麻酔薬としてケタミン、ウレタン、イソフルレンを比較し、人工呼吸器を用いたイソフルレンによるガス麻酔の方が、神経細胞の極端な自発発火を抑えつつ外部からの感覚刺激に応答しやすくさせること、よって今回の研究にもっとも適切な麻酔薬であることあることを見出した。続いて視覚刺激と体性感覚刺激(ヒゲ刺激)をラットに提示するシステムを構築した。このシステムは自作のコンピュータープログラムとデジタル入出力装置、電磁モーターとLED照明装置から成り、このシステムのおかげで本研究に必須な異種感覚刺激の時間的に正確な操作がはじめて可能となった。さらに光学的に大脳の活動を可視化することも試みた。照射光源の波長をうまく調節することで、カルシウム指示薬等を一切使わず、大脳皮質上から神経活動に由来する光反射信号の揺らぎを捕らえることができた。全く予期していなかったのだが、この揺らぎはこれまでその由来が不明であったcortical infra-slow oscillation と呼ばれる脳波の振動成分と一致し、かつ、それが大脳皮質上を波のように伝播していていくことを初めて見出した。さらに重要なことに、この振動波は視覚刺激のみを与えると視覚野を起点として発生し、一方、異種感覚刺激(視覚刺激と体性感覚刺激の両方)を与えると、それに応じて感覚連合野(RL野)を起点として生じることが見出された。この方法を用いれば、大脳皮質上の神経活動を広範囲に同時計測できることが容易となり、異種感覚統合研究を行う上で極めて重要な手法になることが示された。今回の研究結果はinfra-slow oscillation と呼ばれるこれまで素性の知られていなかった現象を解明する重要な手がかりに成ると期待される。
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