1)子宮、卵管内受精機構の可視化と局在変化の解析のため、蛍光標識した卵管内精子を継時的に観察する系を確立した。射出された精子は卵管の遡上とともに減少し、卵管膨大部では十数匹まで低下し、同時に精子先体反応はこれまで考えられていた卵管膨大部より以前の卵管内ですでに開始していることが明らかになった。この現象は体外受精で受精能の低下が報告されている各種精巣特異的タンパク質欠損精子でも同様であった。さらに、合成鎮痙剤の連続投与による卵管の自律神経運動抑制が精子遡上数および受精率を有意に低下させることを明確にした。これらの結果から、精子自身の運動性は卵管のより卵巣側で機能している可能性が示唆された。 2)ACR/PRSS21を介した精子先体反応メカニズムの解明では、PRSS21欠損精子のカルシウムイオノフォア添加による強制的な先体反応誘導処理が卵子との融合能を優位に改善することを明らかにした。一方で、体外受精における受精能回復はしないことから、PRSS21欠損精子の先体反応誘導による受精能回復は部分的であり、生体内で見られる受精能の回復と異なることが示された。しかし、先体反応誘導精子をセリンプロテアーゼ阻害剤で処理しても卵子融合率に変化が見られず、プロテアーゼ活性以外の融合活性の関与が示唆された。加えて、囲卵腔小胞に存在するリン脂質がPRSS21欠損精子の融合能を向上させることも見出した。以上の結果から、精子先体反応時の精子頭部の構造変化はこれまで報告されていた先体内プロテアーゼ活性だけでなく、構成するタンパク質や脂質も重要な機能を持つことが示された。
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