本研究は、指定難病である脊髄小脳変性症の霊長類モデルをコモンマーモセットを用いて作出し、治療法を開発することを目的とした研究である。平成26年度では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて脊髄小脳失調症(SCA)1型(SCA1)の原因遺伝子であるCAGリピートが異常伸張したATXN1遺伝子をマーモセットの小脳にインジェクションすることで、運動失調や振戦を呈したSCA1モデルマーモセットを作出した。 平成27年度は、①マーモセット小脳へのインジェクション方法の安定化、②行動実験方法の改良、③薬物治療の予備実験を行った。 ①AAVベクターは小脳半球の左右2箇所にインジェクションを行うが、既存の装置では脳固定が不安定であり、小脳インジェクション後の導入遺伝子発現にばらつきがみられるという問題が生じていた。そこで新たに小脳インジェクション専用の頭部固定器具を開発し、インジェクションの手技や条件を検討した。それにより、安定した小脳インジェクションを行うことが可能となった。②小脳失調、特に全身の協調運動障害を測定するために、新たにマーモセット用タワーを作製した。これにより小脳失調による運動能力の低下を数値化して計測することが可能となった。計画に記載されたタッチパネルテストはマーモセットにタッチパネルを認識させる学習作業が上手く進まず、現在も検討中である。③26年度に作出したSCA1モデルマーモセットへバクロフェンの経口投与を行い、その影響を調べるため、行動実験を行った。その結果、行動試験での成績改善は計測できなかった。 平成27年度はSCA1モデルマーモセットを作出するための実験手技の安定化や、全身の協調運動を計測するための実験系の開発を行った。さらに、薬物治療を試したが改善はみられなかったが、実験系に多くの検討すべき点が残っているため、今後も継続して治療法開発を検討してゆく。
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