研究課題/領域番号 |
26890007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
節家 理恵子(市原理恵子) 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30532535)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 多シナプス性機能結合 / 機能的磁気共鳴画像法 / トレーサー |
研究実績の概要 |
ヒトやサルに複数の画像リストを順番に見せて学習させ、その後任意の2枚の画像を提示してより最近見た画像を選んでもらうテストを新近判断テスト(Recency judgement paradigm)という。申請者らは、新近判断テスト遂行中のマカクザルのfMRIによる解析から、、新近効果に対する前頭葉9野と下部側頭葉TE野間の機能結合の関与を明らかにし、昨年度末に原著論文として報告した(Osada et al., 2015, PLOS Biology)。 また昨年度は、安静時機能的磁気共鳴画像法(rs-fMRI)による計測を1頭のサルに対して遂行し、下部側頭葉36野をシードとした解析を行った。その結果、36野と前頭葉11野あるいは13野間における機能結合の存在を示唆する結果が得られた。rs-fMRI解析においてシードとした領域をMRIの構造画像と電気生理学的解析から推定し、同一サルの36野内のシード領域に対して順行性のトレーサーであるBDA(biotin-dextran amine)を注入した。BDAの注入量やトラック数、注入スピード等実験の諸条件に関しては、先攻論文やラットを用いた条件検討により至適条件を決定した。3週間後に還流固定と脳の取り出しを行った後、薄切とBDAの染色を行い、投射先の同定を行った。このサル脳のBDAに対する解析から、36野から複数領野への投射が観察され、その中には今までに報告の無いthalamusへの投射も含まれていた。しかし、このサルを用いたBDA注入実験ではいくつかの技術的問題点が明らかになったため、それらの点を改善した上で、2頭目サルに対しても36野へのBDA注入と解析を行った。2頭目のサルにおいては、1頭目のサル脳では確認できなかった投射先(既に過去に論文にて報告されているもの)を確認できており、技術的問題点は解消されたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初麻酔下のサルを用いたrs-fMRIによる解析については、昨年度中に2頭を用いた解析を終える予定であったが、現在までのところ、解析は1頭のみでしか終えていない。rs-fMRIによる画像解析を行ったサルを用いてトレーサーの注入実験を行い、同一のサル脳の解析を通して2領野間に存在する多シナプス性機能結合の投射回路を精度高く同定する予定である。しかしながら、36野内のシード領域へトレーサー注入の際に近傍sulcusへの漏れが起こりやすく、トレーサーが予定量注入されていない場合がある事が判明した。そのため、トレーサー注入時の技術的改良を試みると同時に、想定より多くのサルに対してトレーサー注入実験を行う必要が生じた。また、指導教官の退官に伴い、大学内で研究室の引っ越しを行う必要があり、実験が停滞する時期が多少あったため、多少の遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は新たな2頭のサルを用いたrs-fMRI画像撮像の解析を行い、36野や9野をseedとした機能結合の抽出を行う予定である。また、すでに3頭目のサルの36野にBDAを注入し、還流固定と脳の取り出を行ったため、このサル脳において先の2頭のサルと同様のBDA投射の結果が得られるか、再現性の確認を行う予定である。本実験においては、rs-fMRI画像解析においてseedとした場所に精度高くトレーサーを注入する必要があるが、トレーサー実験の精度や再現性をこの3頭目のサルにおいて確認し、新たにrs-fMRI画像解析を行う2頭のサルを用いてトレーサー実験を行う予定である。同一のサル脳のrs-fMRI画像解析の結果とトレーサー実験による組織学的解析の結果を比較する事で、2領野間において観察される機能結合の基盤をなす多シナプス投射回路を正確に同定できると考えている。 また、蛍光蛋白とOpsinを同時に発現するVirusを用いた2領野間の機能解析は、げっ歯類を用いた研究においては通常の研究手段として用いられているが、霊長類を用いた研究ではあまり報告例がない。これらVirusを用いる事により、Virusを注入した領野からそこに存在する神経細胞の投射先への機能的重要性が確認出来る。そこで、本年度はトレーサーのみならず、これらVirusを36野や9野に注入する事により、その投射先への機能的重要性も確認する予定でいる。また、必要に応じて36野の電気刺激を行い、その際のfMRI画像取得を行う予定でいる。これら実験により、複数存在する36野からの投射先の中で重要な投射先を明らかにする予定である。
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