研究課題
本研究では古代の遺跡から出土するイネ遺物“炭化米”のゲノム解析を推進するためにその基礎となるデータおよび実験系の確立を目的としている。【イネ古ゲノミクスのための情報基盤の整備】先行研究で配列決定された栽培イネ1,086系統、野生イネ446系統、計1,529系統のゲノムリシーケンスデータをデータベースより取得し解析を推進した。大量データを効率的に解析するために、初期データから低クオリティなリードやシーケンス用アダプター配列といった不要なデータを取り除き、レファレンスゲノム配列へアライメント、さらにアライメントしたデータから葉緑体、ミトコンドリア配列の塩基をコールするための解析パイプラインを開発した。このパイプラインを用いて一連の解析を当該データについて行ったところ、核ゲノムに対して平均x1カバレッジ未満の薄いシーケンスデータだが、コピー数の多い葉緑体およびミトコンドリアに関しては十分な厚みが得られ、十分解析に用いられることが判った。塩基配列に部分的に穴があくことを考慮し、これらの穴を埋めるためのデータインピュテーションの手法を検討し、実際にプログラムを動作させ有用性を確認した。【イネ遺物試料からの効率的なDNA抽出法の検討】古代の試料からDNAを抽出するためには専用のラボスペース等の実験環境の整備が必要であるが、古イネDNA専用の機器等を揃え整備を完了した。近年極少量の試料からのDNAライブラリ作成法の技術革新が進んでおり、これらは古イネゲノム分析に有用であると考えられるため当初予定の抽出方法の改良に加えこれらの新規試薬でのライブラリ作成の検討を行い少量の初期DNAから良好なライブラリを作成できことが確認できた。さらに所属専攻所有のIllumina社MiSeqおよびHiSeqについて、現代サンプルでのシーケンスを行い貴重サンプルのシーケンス前に必須なライブラリ作成および次世代シーケンサ稼働のノウハウを得られた。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は、1,500系統以上のイネの膨大なNGSデータについて解析を順調に進めた。さらにデータインピュテーションの手法の検討を行い、その有用性を確認できた。膨大なサンプル数を扱う場合には各サンプル毎のデータの欠けが全体として解析に使えるサイトを大きく減少させ、集団解析や系統解析の解像度や信頼性を引き下げる原因となる。古代イネ試料から得られる次世代シーケンサのリードは少量であることが考えられ、構築するオルガネラゲノムは薄く、塩基配列データに穴開きが多いことも予想されるため、インピュテーション法は今後の解析の大きな利点となる。実験系に関してはライブラリの作成法、次世代シーケンサの稼働のノウハウを蓄積し古ゲノム解析の準備が整った。以上をもって当初研究目的について順調に進展していると考える。
作成した1,500品種の葉緑体ゲノム、ミトコンドリアゲノム配列データについて集団遺伝学解析、分子系統解析を進める。実験系では日本の弥生時代遺跡出土の試料から抽出したゲノムDNAのライブラリについてMiSeqによる配列決定、RNAベイトによるターゲットエンリッチメントの適用を行った上でのMiSeqおよびHiSeqでの配列決定を行い、得られた配列から葉緑体ゲノム、ミトコンドリアゲノム配列の構築を目指す。得られた古イネゲノムデータ現生のデータと合わせて解析を行い、生物学的な解釈を行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
Plant Cell Physiology
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