近年、定常時において常在性腸内細菌がCD4ヘルパーT細胞の分化やIgA産生を調節することで、腸管での免疫応答を厳密に制御していることが分かってきた。この腸内細菌による宿主免疫応答の調節は腸管局所に限らず、中枢神経組織、肺、関節、膵臓などの炎症応答にも影響を与え、ウィルス感染、アレルギー、臓器特異的自己免疫疾患の発症にも深く関与していることが明らかとなっている。しかしながら、腸内細菌による全身性の炎症応答調節機構は不明であり、腸管で分化したT細胞が実際に他の末梢組織に遊走し、臓器特異的な炎症を誘導・抑制しているのかについては分かっていない。組織から組織への細胞移動の可視化やその調節機構を解明するためは、局在特異的に細胞を蛍光標識する技術が有効であると考えられる。本研究は、光遺伝学的手法を用いて光照射部位特異的に生体内で細胞を不可逆的に蛍光標識し、長期に渡りその後の標識細胞を追跡できるシステムを確立することを目指した。 平成27年度は、昨年度に樹立した光照射依存的にCreリコンビナーゼの発現を誘導できると考えられるOpt-Creマウスと、Cre依存的に赤色蛍光タンパク質(Tomato)が発現誘導されるマウスを掛け合わせたOpt-Cre-Tomatoマウスの解析を行った。このマウスを用いて皮膚への光照射実験を行ったところ、一部の表皮細胞は光照射依存的に蛍光標識されたが、皮膚に局在する免疫細胞ではその効果は認められなかった。さらに、このマウスより脾臓細胞を分離し、ex vivoにおいて光照射実験を行ってもTomato陽性細胞は確認できなかった。以上のことより、本研究で確立した光遺伝学的手法を用いた細胞標識法は表皮細胞などの一部の細胞種の動態の追跡には有用であるが、免疫細胞を蛍光標識することは困難であることが示唆された。
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